アマ語翻訳機

 

アマゴの鳴き声を分析する

 あるメーカーから犬語翻訳機が発売された。なづけてバウリンガルである。ワンワン吠える犬の鳴き声を6つの感情に分類して、それを文字で表示するものである。6つの感情は、フラストレーション、威嚇、楽しい、悲しい、要求、自己表現。鳴き声の声紋分析から6つにパターン化するものである。ワンワンとしか吠えない犬が今、どんな気持ちでいるかわかるようであれば実にすばらしい。

威嚇はウーウー唸るのでわかる(ような気がする)。楽しいとか、要求、自己表現などの区別はまったくわからない。餌をくれなのか、散歩に行きたいのか、頭をなでてほしいのか。自己表現は「私、いい子でしょう。私を見てほしいの」という気持ちなのだろう。愛犬家はすべてわかるのかもしれないが、私と一緒に16年半暮らした我が家の駄犬については、吠え声から気持ちがわかったことはない。

赤ちゃんの泣き声も同じだろう。オギャーオギャー泣くからミルクだろうと思っていたら、オシメだったことなど親なら誰でも経験する。眠たくても泣く。私の長女が赤ん坊の頃、ホギャーホギャー泣くので寒いのではないかと思って湯たんぽを入れたら、全身アセモだらけになった。娘は今もって汗かきである。

犬語から思ったのはアマ語翻訳機ができないだろうかということだ。アマゴが今何を考えているのか、エサを食いたいのか、エサは水面を流れるカゲロウがいいのか、それともクロカワムシなのかがわかればバカ釣れである。売れるような売れないような。

もっともアマ語の前にオナ語の翻訳の方が先かもしれない。昔から「いやよ、いやよも好きのうち」らしい。オナ語の言葉は真意と違うようである。自分はオナ語の翻訳は苦手だがアナ語とか、イナ語、イカナ語ならという人がいる。海の底のアナゴの気持ちはアナゴ釣り名人ならわかるかもしれない。

テンカラ界の鬼こと榊原名人の、アマ語の翻訳はすばらしい。アマゴの気持ちがわかるようだ。講習会で言う言葉は 「いいですか。今、アマゴが何を考えているか、アマゴの気持ちになって考えるのです。アマゴは餌を食いたいと思っているのか、それとも腹が一杯でもう十分と思っているのか。ディズニーランドに行きたいなぁと思っているのか。それによって毛バリの流し方が変わるのデス」

参加者は目をパチクリである。アマゴがディズニーランドに行きたいと思っていることはあるまいと思うものの、彼のデモンストレーションを目にすると、この人、本当にアマゴの言葉がわかるのでは?という榊原マジックにかかってしまうのである。

アマゴ翻訳中間報告

ところでアマゴは鳴くだろうか。オナゴを散々泣かせた私でもアマゴが鳴いたとは聞いたことがない。鳴かないけれど自己表現はする。全身を使ったボディーランゲッジである。水面に全身さらけ出す姿態、つまりアマゴの自己表現を目にすることがテンカラの面白さの1つである。毛バリを追って水面にバシャと出るのも、ただ餌と思って出るといった単純なものではないことが、最近のアマ語翻訳の研究結果からわかってきた。いくつかパターン化して紹介しよう。

 イライラ

先行者がいたり、活性が低いとき、しくこく同じところに毛バリを打つとピチャンと素早く尻尾で叩くように出るのがいる。「翻訳」

シツコイなぁ。わて、食い気ないんやさかい、そげに毛バリを打たんといて。それでなくても今日はあんサンで5人目やで。毛バリだっちゅうことはとっくにわかってまんねん。わて、餌食えんとイライラしてまんねん。やめてんか。ほんま

おや?

C&R区間のように入れ替わりたちかわり様々な毛バリを見ている魚の中には、変わった毛バリを流すと、口先でハックルだけをくわえるようなのがいる。メスに多い。「翻訳」

あら? 変わった毛バリだわ。でもね毛バリだっていうことわかっているのよ。私たちって手がないでしょ。だから口でくわえてみるのよ。この毛バリなんだか毛深いわね。 ちょっと縮れてるし。かき分けてくわえるのも大変。あらいやだ。毛が口の中に入ってしまったわ。ペッペッ

腹へった

活性が高い日に、めざとく毛バリをみつけ、先回りしてがっぷりくわえるのがいる。たとえ一度食い損なっても、再度出てくる。「翻訳」

今日はどういうだが知らんが、がんこ腹が減るがや。食いとうて食いとうて。おお!餌だがや。餌が来たがや。シメシメじゃない、めしめし。いただきまっせ。グゲゲェー。痛てぇがや。誰だメシの中にハリ入れたのは。わやだがや

見て見て

毛バリそっちのけで幅跳びするように飛び出るアマゴがいる。20cm前後のメスアマゴに多い。「翻訳」

ねぇねぇ見て見て。私、水玉のワンピース着ているの。かわいいでしょう。赤い斑点あるのも見てね。赤い斑点? 大丈夫アレルギーじゃないんだから。斑点のないヤマメちゃんより可愛いと思わない? 水玉の模様? パーマークというのよ。お馬鹿さんの印じゃないの。

パールマークなんて言う人もいるけど、真珠のネックレスじゃないんだから。おばさんになるとこれが消えるんだって。うちのお母さんなんかもうウスウスよ。今が女の一番綺麗なときなの。よく見てね  

お愛想

散々毛バリを流して、もう出ないだろうと思うと突然出て、ビックリすることがある。初心者は「出たぁ」と思わず口走り、早合せになる。「翻訳」

何よ。出ない、出ないというから、お愛想で出てあげたのに。出ないのは便秘だからじゃないの。しかも何よ。せっかく出てあげたのに、出たぁ!なんて、まるでお化け扱いじゃない。お化けならお岩さん(イワナ)の方でしょ。失礼しちゃうわね私はアマゴよ。

それに何よ。私がチラッと裸で出ただけで、ドキドキ、はぁはぁしてしまって。あぁ出る! なんて。早いのよ。何がって? 合せに決まっているでしょう。あなた何考えてるの

 ドスを利かせる

尺をこえ、どっしり構えたメスアマゴは、ゆったりと出て毛バリとわかるとフンとばかりに戻って二度と出てこない。「翻訳」

私しゃ、この道じゃちったぁ知られた極道の姉御(アネゴアマゴ)だよ。偽物で私を釣ろうなんて、じゃかっしぃい。ほんまもんを出さんかい。私の後ろには極道の妻の岩下シワ姉さんがついているんだからね。憶えときや

 カメラ目線

 バタバタしているアマゴに、カメラを向けるとポーズをとるようになった事例が報告されている。C&R区間の魚に多い現象である。「翻訳」

以前でしたら、一旦釣られたらもうお陀仏と観念したものでした。親からもそう言われてました。ところが、ナンテ言うんですか、デジカメとかいうカメラが出て、インターネットとかいうのが普及すると、私らをパチパチ撮ってから逃がしてくれる人が増えたんです。

ハリだって余り痛くない。あのハリなんていうんですか? バーブ佐竹? 古い? とにかくいい時代になったものですな。 私も、もうダメだと思ったことも何度かありました。でもね撮られたのは命じゃなくて、写真なんですな。しかも、綺麗だとか言ってくれる。私しゃオスですから綺麗だなんて言われると、穴にも入りたい気分ですけど。おっと、穴から出て釣られちゃったんだ。

ちょっとまぶしいのを我慢すればいいだけなので、たいしたことないですわ。綺麗にとって下さいね。目線はこんなものでいいです? もう少し上を向く。ハイハイわかりました 

断末魔

 不幸にして短い一生を終えるものがある。しかも絞められて。「翻訳」

グェー、ちょっとちょっとあんさん、絞めるといっても首を絞めるのとちがいまっせ。エラのところをそんな強く締めないでおくれやす。首に跡がつくがね。クックッ苦しい。あんさん柔道やってたと違います?