ブラウントラウトの繁殖とイワナ

 

ブラウンの繁殖と在来種

愛知県豊田市を流れる名倉川漁協管内の段戸川の上流部から、矢作川(やはぎがわ)のバックウォーターまでブラウンが繁殖している。最上流部の管理釣り場から流出したものとされている。

下流部のC&R区間にも多く、C&R区間では段戸川倶楽部メンバーによりルアーで70cm、テンカラで50cmが捕獲されている。

捕獲の言葉のように、C&R区間ではブラウンは駆除対象であり、釣ったら持ち帰り、食べることをお願いしている。

渓流にブラウンがいること、ブラウンは外来種であること、ブラウンの繁殖により在来種が駆逐されることは渓流釣りをする人でもほとんど知っていない。

バス(オオクチ、コクチ)の繁殖により在来種が減少するのと同様に、渓流にブラウンが増えることで在来のイワナが減少、場合により絶滅する恐れがある。すでに北海道ではイワナが絶滅した渓流がある。

ブラウンの繁殖とアマゴの関係はまだ研究が進んでいないようだが、段戸川倶楽部は1日10匹アマゴが釣れる釣り場をめざして活動している。

そのためブラウンの繁殖がアマゴに与える影響、ブラウンの駆除、場合により共存を考えるためにはブラウンについて知らなければならない。

ブラウンは我が国の生態等に被害を及ぼすおそれのある外来種リストにあげられている。

水産庁は「水産分野における 産業管理外来種の管理について」の中で、これ以上、分布が広がらないようにすること、釣り人の私的放流はダメという指針を出している。

 

 

宮本さんの講演

そこでブラウンとニッコウイワナの関係について研究している宮本幸太さん(博士・農学)をお招きして11/28日講演会を開催した。

コロナの関係で大勢集まることを避けるため段戸川倶楽部メンバーだけに告知した。このため15名と少数の参加であったが、かえって講演の途中で質問がライズのようにあり、参加者には充実した勉強会になった。

宮本さんの肩書きは長い。国立研究開発法人水産研究・教育機構 中央水産研究所沿岸・内水面研究センター日光庁舎 内水面資源増殖グループ研究開発職員である。

あぁ〜長い。一気に言うと息が切れる。ゼィゼィ。本人も間違わずに紹介するのが難しいとのこと。

講演は2つのテーマであったが、大谷川(だいやがわ)でのブラウンとイワナの調査についてのみレポートする。

スライドは外部に出せないものがあるとのことなので、私のメモで。

・2018〜2020年の大谷川の調査と研究。栃木県日光の中禅寺湖から流れ、鬼怒川に合流する大谷川にはブラウンが繁殖している。潜水目視ではほとんどがブラウンだった。

・調査の結果、上流部ではイワナは絶滅していた。下流部も半数がブラウンであった。

・ブラウンを除去した上でイワナの稚魚を放流するのは効果的であった。

・絶滅した上流部にイワナを移植して今後を調査している。

・イワナが少なくなった(ブラウンへ置換している)時点で釣り場の状況を確認すれば絶滅、減少は避けられた。

・47日間、398名に釣獲の聞きとり調査を行った。その結果、釣った魚の半数以上がブラウンであった。

・釣り場の変化を察知するために釣獲日誌が効果的。釣獲日誌から流域のブラウンの割合が把握できた。

・2018年の釣り人の意識調査では大谷川のブラウンについては、「いてもいいけどヤマメ、イワナがいなくなるのは困る」が半数。「いらない」が45%、「いてほしい」5%。ただ、この意識はブラウンの定着が固定化されると変化するかも。

・アマゴとブラウンの関係の研究は進んでいない。

段戸川のブラウンをどうするか

これらの結果から段戸川のブラウンはどうしたらいいのだろうか。

釣り人の立場からは、ブラウンは大型になるし、引きも強いので釣りの対象として面白いという思いがある。

自然渓流で大型のブラウンが釣れるのは近在では段戸川だけである。

ただし、生態系に被害を及ぼすおそれのある外来種であることからアマゴへの影響があるかもしれない。もちろん、段戸川の在来種はアマゴだけではないが。

ブラウンは上流域から下流域へ徐々に進出してきてすでにバックウォーターまでいることから、ブラウンを除去することは現実では不可能。

現状では当面、アマゴとブラウンの共存しかないだろう。段戸川のブラウンをどうするかは段戸川倶楽部で決められる問題ではなく、愛知県や漁協の判断になる。

ブラウンがイワナを駆逐するのは産卵期が完全にかぶっているのが要因の一つである。

アマゴとブラウンの産卵期はアマゴが先であるが、ブラウンが産卵した卵を食べるとか、アマゴの産卵床を掘り返すという問題もある。

孵化した稚魚を食うこともあるかもしれないが、宮本さんの話ではブラウンは基本は水生昆虫食で、魚を食うのは放流された直後の数日だけであるとのことなので、食われるのは少ないのかもしれない。

ブラウンとアマゴの関係はまだ研究は進んでいないようだ。段戸川でブラウンとアマゴが共存できるかは調査が必要である。

宮本さんの講演にあった釣獲調査はブラウンとアマゴの実態を知るために釣り人のできる方法である。

来シーズン、段戸川倶楽部で実施したらどうか。それを段戸川で釣りする人に拡大できればと思う。

確実に言えることがある。段戸川のブラウンを安易に他の渓流に移植しないことである。いいじゃん、大型になるから、引きが強いんだからと。

ブラウンの私的放流は禁止である。絶対に止めなければならない。