2)アメリカの渓流とテンカラ

 

夢は50cmオーバー

なぜ7回もアメリカのテンカラを体験したのか。それは我々と同じく土日の休みを楽しみに待つ一般庶民はどんな渓流で、どんなテンカラをしているのか知りたいと思ったからである。1回ではわからない。

アメリカは日本の25倍の広さがある。カリフォルニア州だけで日本と同じ面積である。コロラド州は本州と同じ広さであり、国内で時差がある国である。そんな広い国のアメリカのテンカラを「アメリカでは・・」と一口で言えないのは当然である。

ともかく広大である。ダニエルの住むボルダーの街はロッキー山脈の東の端にあり、西にはロッキーの山並みが連なっているが、東に目をやれば、ここから3000マイル、4800kmはフラットな平原である。目にはいるところはひたすらまっ平らである。

7回のうち、東部のニューヨーク州を除く6回はロッキー山脈を挟んだ地域で、乾燥した土地である。したがってこの地域でのテンカラ体験しか言うことはできない。

我々が抱くアメリカの釣りはブラッドピットの「A River Runs Through It」に出てくるような広大で荒々しい渓流で大物を相手にするイメージがあるかもしれない。私もアメリカに対してそんなイメージを描いていた。

この映画はモンタナ州のギャラティン川で撮影されている。私もギャラティン川でテンカラをしたが、釣りをした場所がすぐ横を大型トラックがブンブン走るようなところだったので、映画のような森の中の釣りは体験していない。

 

              

 ギャラティン川の釣り(2011年)

http://aitech.ac.jp/~ishigaki/tenkara/2011/montana2.htm

 

広いアメリカなので、どこかで大物の入れ掛かりのパラダイスがあるのかもしれないが、私のロッキー山脈をはさむ地域のわずかな経験から言えば、50cmを越える魚が釣れるのはマレである。

それゆえ釣り人の夢は50cmオーバーである。30cmを越えるとOh!  Bigと呼ぶ。尺をこえるとデカイねという我々と変らないのだ。

それには雨の少ないドライな気候のため渓流の水が少ないこと、釣り場が限定されるため入れ替わり釣り人が訪れ、ほとんどの魚がリリースされるC&Rなのでスレているからだ。

このため条件が揃ったときにだけ幸運の女神がほほ笑む。しかし、そのチャンスはたまの休みのサンデーアングラーには限りなく少ない。

 

 

標高2600mのテンカラ

ロッキー山脈を挟んだ地域は乾燥地帯である。雨の少ないドライな気候である。場所と季節によっては連日晴れで天気予報はいらないところもある。雨が少ないので水は雪溶け水に頼るほかない。

今回は7日間滞在したが連日晴れで、唯一、1日だけ、それも朝だけ1時間程度パラッと雨が降り、それもすぐに止み晴れとなった。このため傘をさす習慣はないようだ。

アメリカの水の1/4はロッキー山脈に降る雪溶け水と言われている。このため、各地に巨大なダムがあり、ダムから流れる水が渓流となり、ダム下、あるいはダムとダムの間が渓流釣り場となっている。

今回、ダニエルの家のあるボルダーを中心に3か所の渓流を体験した。日本では渓流というと石や岩の渓流をイメージするが、向こうでは「mountain stream」なので、山の中であればフラットな場所を流れてもmountain streamである。

到着した翌日の2日目はボルダーから北西、約1時間にあるロッキーマウンテン国立公園にある渓流に行く。ここには2014年にも来ている。入園には1台で10ドル程度が必要である。ダニエルは70ドルの年間パスを持っていた。

ボルダーは標高1600mのマイルシティであり、そこから1時間の国立公園のゲートの地点が標高2500mである。そこから更に走るので、釣り場は標高で2600m程度あるように思う。

息が苦しい。明らかに空気が薄い酸欠である。くわえて飛行機で一睡もできず、ダニエルの家でも時差ボケで浅い眠りだったので、酸欠と寝不足で息が苦しい。急に立つと立ちくらみがして、少し頭が痛い。

ロッキーマウンテン国立公園には野生のエルクがいるので、それを見に来る観光客やハイキングの人、ランニングの人などで駐車場は満車である。わずかな隙間に駐車してそこから釣り開始である。

釣りにはライセンスが必要である。9/12~16日までの5日間で20ドル程度である。インターネットで申し込むとき、氏名、生年月日、身長、目の色などの情報を入れ、カードで決済する。

許可が下りると許可証をプリントして携帯する。ライセンスなしで釣りをした場合、犯罪になる。身長、目の色などを書かせるのはチェックの際に必要だからだろう。今回、レンジャーによるチェックはなかった。

日本の入漁証購入の煩雑さと、それによる無券入川はここではありえない。日本がこのようになるのはいつの日だろうか。

今日はダニエルとサミットのボランティアであるマーク、ダニエルのお客さんのデビットの4人である。高山病対策には水を飲むことのようだ。皆から水を飲め、飲んでいるかと言われる。

言われるまでもなく、ドライなので20分おきに水を飲まないとノドがペタペタと張りついてしまう。半日飲まないと死ぬだろう。

 

 

少ない水、多い踏み跡

暑い。おそらく30℃は超えているに違いない。暑いが汗をまったくかかない。暑がりジェイソンの私でも汗が出ないのだ。蒸発してしまうからだろう。

日本ならシャツは汗まみれで洗濯しなければならないが、汗をまったくかかないので何日でも着ることができる。実際、4日間の釣りを2枚のシャツで過ごした。

川はクネクネと蛇行していて浅い。足もとの草は釣り人に踏まれて道になっている。これは釣り人が多いか、あるいは皆、同じところで釣りをするか、またはその両方だろう。

実はアメリカで廻ったところのすべての川で、草は踏まれて道になっていて、土はテカテカと硬く固まり、大勢の人が同じところで釣りをしているのを伺わせる。

日本ではここまで道がついている渓流を知らない。釣り場が限定されているから、皆同じところに来るからだろう。

というのは4日目にビックトンプソン川で釣りをした後、小マイク、大マイク、ステーブと私の4人でロッキーマウンテン国立公園で釣りをすることになった。

なんと案内されたのが2日目とまったく同じ場所である。同じところに車を停め、同じベンチに座り、同じゲートを開けて入る。金曜にもかかわらず、すでに我々の前に4人が先行していて都合8名がゾロゾロと竿を出すことになる。

そうなのか。皆、同じ場所で竿を出すから道がついているのだ。釣れるはずがない。この時は15cm程度のブルックが釣れただけである。

小マイクは2年間、沖縄の空軍基地で勤務していたそうである。ドライな気候のボルダー在住なので、沖縄はさぞ暑かったのではないかと想像する。沖縄は最高だったと言うが社交辞令もあるだろう。

底石が赤いので赤茶色の川に見えるが水自体は澄んでいるように見える。今は底石が見えるチョロチョロした流れであるが、おそらく雪どけの頃は近寄れないほどの水量となり下流のダムに流れ込むのだろう。

魚はレインボー、ブラウン、カットスロート、ブルックの4種類らしい。今回、ブラウンの27cmが最大であった。ここでも30cmを越えるのは条件が揃わないと難しいようだ。

C&R状態なので魚は無数にいるがスレている。口に傷のあるブラウンも釣れた。おそらく何回も釣られているのだろう。

20cmもないカットスロートが釣れた。カットスロートは少ないらしい。ダニエルがブルーバック?という。ブルーバックではないようだ。

背中の青いカットスロートがいて希少な魚らしい。あそこの上流にブルーバックがいるというが、その支流は日本の山岳渓流を思わせるところで、危険な支流であることは見ただけでわかる。

そこまで行けば誰も釣らないパラダイスがあるのかもしれない。しかし、危険を冒しまで竿を出さないのだろう。

ここではレインポーは釣れなかった。ここだけでなく今回の釣りでは1匹釣っただけである。この地域ではレインボーよりブラウンが定着しているようだ。

もともとブラウンはヨーロッパの魚である。これがアメリカに移入されて定着している。日本で言えば外来種のニジマスのようなものである。日本ではニジマスやブラウンが問題になるが、ダニエルの聞いたところでは外来のブラウンだからといって誰も意識していないようだ。

そもそも多民族国家のアメリカなので魚の移入も当然のこととしているのかもしれない。

続く