テンガラと加賀テンカラ竿

 

加賀竿の職人である中村滋さんからテンカラ竿を作ったので試し振りしてほしいと連絡があった。中村さんはもとは高校の先生だったが、早期に退職して竿職人になり4年である。いったん途絶えた加賀竿の復活をめざし工房「白峯」を構えている。

連絡のある以前、伝統的な鮎毛バリの老舗「目細八郎兵衛商店」がテンカラ毛バリを作ったと知って検索したときから、中村さんと加賀竿のことは知っていた。加賀竿を復活させる人がいるのか、果たしてテンカラ竿はあったのか? 

中村さんの話では加賀竿にはテンカラ竿はなかったようだが、実用化できるテンカラ竿を作りたいということなので、私でよければと試し振りとアドバイスをさせてもらった。

最初に見せてくれたのがテンカラ棒素(ボウソ)と掛けバリである。実物を見るのは初めてである。昭和30年ごろまで実際に使われていたもののようだ。竹の部分は60cm程度、これにクジラのヒゲを塗装した40cmぐらいの竿先で出来ている。

掛けバリは4cmぐらいの円錐形のナマリに3本のハリが出ている。これをクルクル回して投げ、掛けバリの上を通る鮎を引っ掛けるというものである。昔は鮎がいくらでもいて、水も澄んでいたので、これで十分釣りになったのだろう。

この釣り方は江戸時代には全国にあったようで、江戸時代末期、秋田の武士の日記には「テンガラ」と書かれている。

渓流の毛バリ釣りであるテンカラの語源は定かではないが、引っ掛けのテンガラがテンカラとなり、いつのまにか毛バリ釣りにすりかわったのではないかと考えている。このあたりのことは「なぜ?テンカラ -語源へのアプローチ-」に書いた。

今回、テンカラ竿は3本である。1本は塗装をほどこした竿、あと2本は完成途中である。3本とも3.2mの5本継ぎである。私の地元の足助(あすけ)テンカラ竿を2本持参して参考にしてもらった。足助竿は後継者がいない。

工業製品と違い、竹竿は2本と同じものはできない。折れてしまえばスペアはない。1本作るのに複雑な工程と長い時間がかかる。竹の切りだし、乾燥などを入れれば数年はかかるだろう。

現在のテンカラ竿は3.6m程度が主流だが、竹竿の3.6mはグンと重くなる。1日で軽く1000回、あるいはもっと振るテンカラでは自重のある竿、風切り抵抗のある太い竿はとても振れない。せいぜい3.2mか3.3mが限界である。

竹竿は、うるしや繊細な螺鈿細工などが施された値の張る伝統工芸品が多い。折れたらスペアがないことこともあり実用品ではなく飾って眺める竿にならざるを得ない。

中村さんは工芸品の竿だけでなく、使って楽しめる実用のテンカラ竿もめざしている。竹竿となればラインは馬素である。そこで馬素で振ってみたがラインの飛型が見えないので、ストレートラインを使用した。

実用品として軽いこと、バランス、グリップの太さ、素材、振り込みの調子を中心にアドバイスさせてもらった。竹竿はゆっくり曲がり、ゆっくり復元するのでカーボンのようなピュッと音のする振り方は適さない。

ゆったりとした竿のしなりと復元にゆだねるだけに、ゆったりとした刻の流れを感じることができる。これで数匹釣れば満足である。

日本の伝統的な毛バリ釣りテンカラを竹竿で楽しみたいという人もいる。その期待に応える竿が来年あたりから目細八郎兵衛商店から発売予定とのことである。