渓流の未来と入漁券

月刊つり人5月号に八木編集長の「渓流の未来」のコラムがある。コラムによれば、現在、内水面漁協はおよそ800あるが、その大半は赤字であり、組合員の高齢化も進んでいて、このままでは2035年には組合員がゼロになるシュミレーションもあるという。

さらにコラムには「イワナをもっと増やしたい」の著者で、国立研究開発法人水産総合研究センター増養殖研究所内水面研究部生態系保全グループグループ長という長ーーい肩書きの中村智幸さんの、渓流魚の増殖に関する講演の一部が紹介されている。

魚を増やすには、成魚放流してもほとんど釣り切られてしまうので、稚魚放流の方がいいというのが釣り人の一般的な感覚である。しかし、人の手で育てられた稚魚は弱く、生き残れないというのだ。

15cmまで育つ生残率は、稚魚放流を1としたとき、発卵眼放流1.67、自然繁殖2.31であるという。自然繁殖の魚に比べて人の手で育てられた稚魚は生き残る力が半分以下である 。

中村さんは親魚(完全に成熟した産卵直前の魚)を放流すれば、たとえ養殖魚であったとしても産卵適地があれば自然産卵するという。この手法はすでに水産庁から渓流魚の増やし方として紹介されている。中村さんはこのパンフの編集にかかわっている。

コラムによれば岐阜県内ではいくつかの漁協で実施されているようだ。また、群馬、山梨で一部の漁協が試験的に導入を始めたとのことである。

渓流魚を増やしたいと思ったとき、釣り人にできることとして中村さんがあげているのが「期間限定、サイズ限定の禁漁」である。まもなく産卵という禁漁前の2~3週間だけ、サイズ20cm以上の魚に限って持ち帰らないというルールにする。これによって親魚が産卵できる確率が高くなるという。

ここからは私見である。ほとんどの渓流釣期は9月一杯まで。アマゴ、ヤマメの方が産卵が早いので2~3週間前となる9月中旬に前倒しして禁漁であれば、かなうのかもしれない。個人的にはそれで魚が増えるなら賛成である。

すでに、10年くらい前から岐阜県高原川漁協や荘川漁協では、それまで9月末だったのを9/10から禁漁にしているので、これにより魚が増えたのではないかと思うが、どうなのだろうか。

中村さんからスマホによる釣りチケットの販売に関してメールがあり、その中で遊漁者の割合についての最近の研究の紹介があった。

1. 日本全体の遊漁者に占める内水面の遊漁者の割合は、平成10年頃は約25%だったのが、約50%と倍増したとのこと。遊漁者自体は減っているので、これは内水面の遊漁者数が増えたのではなく、海面の遊漁者数が減ったと考えられること。海釣り人口が減っているようだ。

2. 内水面の遊漁者の約80%が「漁協があるところでは遊漁券を買わなければいけない」ことを知っている。

3. にもかかわらず、 約30%の遊漁者が「遊漁券を買っていない」 全体の約3割の釣り人が無券者。

4. 買わない人には、買わない理由がそれなりにある。現在、その理由を解析中。買ってもらう工夫も必要。その工夫のひとつがClear Water Projectのシステムと考える。

まじめに遊漁券を買う人からすれば、無券で釣りをして、しかも大量に持ち帰ることに腹が立つ。買わない理由はなんとでもつけられる。アメリカのようにライセンスなしなら逮捕という厳しいルールでない限り、買わない人は確信的に買わないだろう。少しでも、無券者を少なくするための今後の中村さんの研究に期待したい。