泣く子とルアーには勝てない

 

渓流ルアー専門の人と石徹白C&Rで竿を出す機会があった。私も今は昔、30数年前にルアーをやったことがあった。

当時は渓流ではメップスなどの小さいスピナーだけだった記憶がある。ほとんど釣れずにあれから35年、ルアーマンとの交流はなく、この日の突然のルアーである。

朝方の雨もあがり、日差しがニコニコと出た頃にハッチがあり、それにあわせるようにイワナがパタパタと出た。それを見ていた彼はやらせてください、一度やってみたかったんです。テンカラに興味津々。

キャステングはなんとかできるが合わせがうまくいかない。アタリがわからないという誰にでもある入門初日のパターン。ピックアップしたら掛かっていたがフッキングが弱くバレるという繰り返し。

そのうち冷たい北の風に変り、急に肌寒くなってきた。それとともに、あれほど反応したイワナが毛バリには見向きもしなくなった。毛バリが頭の上を流れようが誘おうが「フン、わかってんだかんね。ニセモ ンだろ」

今度は私がルアーを見せてもらう番である。なにせ渓流ルアーを見るのは初めてだから私も興味津々である。ルアーBOXから5cmくらいのミノーを出す。もちろん、シングルのバーブレス。ミノーのシングルは少ないようだ。

斜め上流に投げ、リールをシャカシャカと巻く。巻きは速い。チェイスして来ます! よく見えない。また投げる。今度は3匹チェイス! よく見えない。

今、どこにルアーがあるかルアーの動きが速くて目がついていかない。そのうち目が慣れてきた。それとともに狂ったようにイワナがルアーをチェイスするのが見える。足元近くまで追って来る。

そのうち、とうとうフッキングした。

なんだなんだ。お前たちは。さっきまでまったくやる気がなかったじゃないか。イワナよ、お前はユルユルとしか動かない鈍な奴だと思っていたが、そんなにも速く泳げるのか。やればできるじゃないか。

今度は私がルアーを投げさせてもらう。35年ぶりで感覚がわからない。あっちに飛んだり、こっちに跳ねたり。そのうちまともにキャストできるようになったが、リーリングのスピードがわからないので、今、どこにルアーがあるか見えない。

なんとか様になった頃、きわどいところを狙ったつもりがブッシュに掛かる。ウンウンと外れないうちにプツン。

ごめんなさい。申し訳ない。

あのルアーはいくらです(もちろん弁償するつもりはないが)

1500円くらい。でも、使っているし、そのうち壊れるものだからいいですよ。

なんと1500円もするのか。毛バリなら・・・うーん、ハリの値段ですむが。

ルアーはテンカラの天敵である。つくづく泣く子とルアーには勝てないと思った。以前にもルアー先行の後を振ったが、魚は呆けたようになって毛バリにはまったく反応しなかった。

あんなキラキラして、変則的な動きをするものには狂ったようになってチェイスする。一度、それを見てしまうと、その後に毛バリが流れようが茫然自失の魚にはまったく目に入らなくなるのだろう。

ところがである。彼の話では毛バリに反応がいい日は、ルアーはまったくだめだそうである。毛バリがいい日はルアーがだめ、ルアーがいい日は毛バリがダメなようだ。たしかにこの日のように毛バリにまったく反応しなくなってからはルアーの時間帯だった。

テンカラとルアーの両刀遣いのルアテンが渓流では最強かもしれない。いやいやライズがあるときはドライフライが最強という声もある。

ルアー、テンカラ、ドライフライをその状況で使いわけるルアテンドラ(どこかの国王の名前のようだ)の三刀遣いが本当の最強だろうが、二兎と追うもの一兎をも得ずなので、ましては三兎では失うものだけで得るものはないだろう。

なにか一つに集中して深く追求する方が楽しみの幅を広げるように思う。