なんでお前が?(2)

 

夜来の雨も早朝には止んで、山荘の窓からのぞく雲もゆっくりと山肌に沿って上がりだしていた。この様子では晴れそうだ。6時起床だがガンジーは4時に起きてしまったようだ。電気もない暗闇ではすることもなく仲間が起きるのをジッと待ったらしい。

起きしな、ただちにみずきさんが朝食の準備にかかる。つけうどんのようだ。手際よく、それでいて、私が大食いであることを承知の上で全員が満足する量をつくる。

正座して食べる。みずきさんに敬意を表したからではなく、身体の硬い私はあぐらを組むと身体が前に倒せないので、うどんをとれないだけの話である。

山荘を撤収するころから晴れてきた。晴れても気温15度なので暑がりの私でも汗はかかない。今日は毛バリがブンブン振れるところをお願いした。昨日の入渓点より500m下流から入る。ここからは広くなっているとのことである。

なんと入り口にみみずパックが捨てられている。こんな山奥に来る連中がいるのだ。ミミズならここのイワナは赤子の手を捻るようなものである。おそらく根こそぎ持ち帰るのだろう。 北海道の河川の多くは漁協がないので、タダで獲り放題である。それにしてもどこもかしこも餌釣りのマナーは悪い。

夜来の雨で5cmほど増水しているが濁りはない。ムッシュと交互に釣り上がる。

数投目でラインがふっ飛ぶような糸フケ。クイと合わせるとガクッという衝撃のあと、流芯を横切りながら激しく抵抗する。

これは尺近いな? やがて二度、三度とジャンプする。なに? イワナがジャンプするはずないしニジマスか? やっぱりニジマスだ。うん? ホウライ? 

なんとホウライマスである。なんでお前がここにいるの(驚)! はるばる北海道までお前を釣り来たんじゃない(怒)

みずきさんの話ではこの下流に堰堤があり、ニジマスは上がれないのでおそらく堰堤上に放流されたものとのことである。

本州ならここぞいう流芯はアマゴやヤマメが占めているが、まったく同様にここをニジマスとホウライが占めていた。

イワナは流芯を遠く外れた餌の流下の少ないところに追いやられている。この日も尺1本が最大だったが、釣れたポイントは餌釣りはもちろんテンカラでも誰も見向きもしないような止水からだった。

本来ならイワナは流芯の一等地を占めて餌を好きなように食えるはずなのだが、そこは外来のニジマスに占拠されている。外来の侵入者が占拠した以上、イワナはさらに駆逐され肩身の狭い思いをしなければならないだろう。

わずか3時間の釣りだったが、釣れる魚の半分がニジマスとホウライだったのはしごく残念である。

結果ホウライだから、釣れるならホウライでもいいじゃないかという考えもあるかもしれない。ならばブラウンもいいじゃないか、引きが強くて面白いなら湖にはパイクを放せということになってしまう。

ニジマスもブラウンも外来種だから本来、日本の渓流にいてはいけない魚である。ただニジマスについては様々な意見がある。すでに100年以上の歴史をもち養殖産業に貢献し、北海道ではニジマス釣りとして観光にも貢献し 、それで生計をたてるガイドもいるからだ。外来魚だからと言って、今からニジマスを駆逐することはできない。

すでにニジマスが外来種であることを知らない人たちが増えている。北の大地の水族館(山の水族館)のオチは面白い。同様にブラックバス が外来種ということを知らない人も多いだろう。

昨年、北海道の道南でテンカラをした。北海道の釣りは十勝、 道東しか知らなかったので、道南と聞いたときどうなんかな?と思ったが、予想に反してまた期待以上だった。

そこはクマ笹が車体をこするような狭い林道の終点から、伏流している河原を1時間歩いたところで、ここまで来る釣り人はまずいないテンカラの楽園のようなところだった。ここでは密放流はないだろうし、釣り人のいかないところの魚は減ることもない。

日高山脈のこんな山奥にも林道が整備されている。それは林業のためなのだが、車が入れる限り釣り人が入り、密放流が行われる。もはやこれを止めることはできないのだと複雑な思いで川を後にした。

帰り路、新冠温泉「レ・コード」の湯で汗を流してさっぱりする。レコードで町おこしをしているのでレコードの湯らしい。木をふんだんに使った広い温泉で、しかも500円と安い。目の前が豊饒の海なの でレストランのメニューは海鮮がメインで、しかも安い。

札幌に戻りアメリカ屋という釣具店に向う。札幌駅の近くの三階建の釣具店である。 札幌駅に近い一等地のビルでやっていけるのかと余計な心配。広いスペースでゆったりとしていて、いかにも北海道の釣具店である。

テンカラ用品の品ぞろえが多い。まだまだ北海道でテンカラをする人は少ないようだが 、潜在的なファンはいるのかもしれない。サケ釣りがシーズンらしく、こんな仕掛けでサケを釣るのかと驚くばかりである。

その夜は回転寿司に入る。北海道でなければ食べられないもの、そして今が旬を食べる。ご飯は少しで、それを覆いつくしてなお余りあるネタ。ガッツリ、ゲフとなるまで食べても安い。

明日はビックファイト松本で管理釣り場の天然ニジマスを狙うとのこと。管理釣り場に天然ニジマス?