講習会で教える。キャスティング編

 

機会あるごとに講習会を開いている。なぜそんなにたくさん講習会を開くのですか?と聞かれることがある。中にはシマノの竿を売りたいから? 売るとお金が入るからでしょう、なんて口には出さないが思っている人もいる。そんなケチな気持ちは微塵もない。教員として普通に食っていけるので、釣りを糧にするつもりはない。

普及の2つの理由

テンカラの普及のためである。なぜ普及したいのか。私の夢は渓流釣り人口の半分をテンカラにすることである。これには2つの理由がある。

1つはテンカラは面白い釣りだから。テンカラは面白い釣りと思うし、テンカラをしている私はハッピーだし、テンカラを始めた人はハッピーになっているように思うからである。だから少しでも多くの人にテンカラを普及して、この釣りを始めてよかったと思ってもらいたいのだ。自分が好きだからと言って人にも薦めるのは余計なおせっかいであるが、性分なので仕方がない。

2つめの理由は渓流魚を増やすことである。なぜ、テンカラで渓流魚が増えるのか。これはたびたび書くことだが、テンカラをするようになると不思議と釣果にこだらわなくなる。「我テンカラ引水論」に詳しく書いたので繰り返さないが、魚を欲しいと思わなくなるのだ。もし、テンカラが渓流釣りの半分になれば魚は今より増えるのではないかという遠大な期待からである。

教えることは省くこと

私は教えることは省くことだと思っている。これは大学教員として学生に教えることで私が学んだことである。あれもこれも教えたいことはたくさんある。ではそのすべてを教えることができるか。できない。

もし無理に教えようとすると消化不良になるので、学生は態度には出さないが心で拒否する。表情や目でわかる。最低限必要で、しかしキモになることを確実に教えれば、その他のことは自ら調べ、補間するようになる。自ら考えたものは身につく。

なにより楽しいことである。大学の講義も講演会も楽しいことを心がけている。楽しいことは記憶に残るからだ。講習会のオヤジギャグも講習の調味料のつもりである。

このような考えで講習会をしている。講習時間はせいぜい3時間である。それを越えると私がぜいぜいする(しません)。しかも参加者は複数である。多いときには二桁になる。

レベルは今日始めてという人からキャリアの人まで。何もわからない人から学びたいことが明確な人までの混成である。

講習会は一期一会である。イチゴ好きぇと舞子はんが。

私の講習を次に受けることはまずない。必要最小限で、しかもキモになることを知ってもらい記憶に残す。それをもとに、自分で独り立ちできるきっかけをつくることである。

では、テンカラのキモはなにか。私はキャスティングとどこに落とせばいいかというポイントと思っている。テンカラはキャスティングが半分である。キャスティングができれば狙ったポイントに落ちるので必ず釣れる。条件次第ではバカバカである。

しかし、キャスティングができない、しかも落とすべきポイントがわからなければ釣りにならない。時間がかかる。キャスティングができないのはキャッチボールができないで野球をやるようなものである。

限られた時間内である。難しいことを言ってはいけない。理解できない。

キャスティングのコツはイチ、ニの2拍子のリズム。12時から10時の振幅。12時の空に竿先を突きさすように速く強く跳ねあげる。10時で止めるのでなく、自然に止まるようにする。前にチカラはいらない。チカラを抜けば飛ぶ。

動作を言葉にする

キャスティング動作を言葉にするのは難しい。誰でも歩くことができる。ではどうやって歩いているのですか?と聞かれても、右足が出るときに、左手は後ろに振って・・・・

つまり、動作を言葉で表現することは難しい。できないと言っていい。名選手にどうやって球を打つのですかと聞いても、球がこうスッと来るだろ、そこをグゥーッと構えて腰をガッとするんだと長島茂雄さんのようにしか言葉にできないのだ

キャスティングができる人には簡単にできる。ではなぜできるのですか?と聞かれれば、それを言葉で表現しなければならないが、表現できないから「できるからできるのだ。見ていればわかる、俺のを見て学べ」となってしまう。

どこを見ればいいかわからない人に見て学べはつらい。長時間見せられるのは苦痛である。マンツーマンならいざ知らず、短時間の他人数の講習では無理である。

講習会は講師のデモンストレーションの場所ではない。いくらいい技術を持っていてもそれを披露する場所ではない。名選手が名監督になるとは限らない。見せることと教えることはまったく違うのだ。

キャスティングのデモをして、キモを見てもらい、キモを言葉でコンパクトに表現する。そのとき、どこを見ればいいかを「ここです」と具体的に指摘する。その瞬間を目にやきつけてもらう。

ある程度のキャスティングができれば実釣である。早くやりたいとウズウズしているので、実釣に移る頃あいは表情や目をみるとわかる。このタイミングを逃すとウズウスがイライラに変る。

講習会ではさまざまな問題がある。それは竿とラインである。もちろん、どんな竿でも慣れれば振れるようになるが、それまでに時間がかかる。

最悪の組み合わせはこれでは振れないというガチガチの硬い竿と、視認性が悪く自分のラインの飛形がわからない見にくいラインである。テンカラを始めたいと言ったら釣具店で薦められたという最悪の組合わせである。

釣具店であっても店員がテンカラに精通しているとは限らない。むしろ、ほとんど知らないと言っても過言ではない。少なくとも柔らか目の竿(といっても何をもって柔らかいというのかがわからないことがあるが)視認性のいいラインは必要である。

はっきり言うとシマノの「渓流テンカラZL」とフジノの「ストレートライン3.5m」である。軽く振りやすい竿と撚り(カール)のないラインである。撚りのないラインはまっすぐ飛ぶ。

キャッチボールが簡単にできる人も、ぎこちない人もいるように個人の運動神経はどうしようもない。頭では言葉ではわかっていても、身体が言うことを聞かない。しかし、誰でも歩けるように、できるまでに時間の長短はあるが必ずできるようになる。誰でも最初は初心者だから。

キャスティングが上手くなると釣れるようになる。上達はキャスティングに比例する。キャスティングはいつでも、時間と場所さえあれば練習できる。魚がいないのに竿を振っている変なオジサンがいますと警察に通報されないことを願うが。

石徹白の講習会Youtube(撮影、アマゴンスキー木村さん)

アマゴンスキー家の休日