歩く釣りテンカラ

 

歩く釣り

今年は暖冬のようだ。とても冬とは思えない年末年始だった。

日足は一日づつ長くなっている。あと2ヵ月の辛抱で陽光の春。テンカラが振れることもさることながら渓を歩けることが何よりウレシイ。命と引き替えのような源流を目指すわけでもなく、里川での釣りではあるが、歩くことはテンカラの釣趣の一つである。

多くの釣りの中でテンカラだけが歩く釣りである。フライやルアーも歩くとは言え、テンカラほどではない。ヘラ釣りでは一歩はおろか立つこともない。山本素石さんがテンカラを山釣と称したが言い得ている。

歩くからテンカラは楽しい。脚の筋肉が突っ張り、ゆるみ、石や土や草の感触が一歩ごと足裏から伝わり、うっすらと額に汗がにじむ。適度に息がはずみ、心地よい疲れを感じる。今、自分は歩いているという実感は活きている証でもある。

テンカラでは一体どれくらい歩いているだろうか。かなり歩いているようでもあり、そうでもないような。ずっと以前のことになるが、興味を持った私はテンカラ釣行の際、万歩計をつけて歩数の記録を採ってほしいと釣り仲間にお願いした。

「いいですよ」と皆さん快く引き受けてくれた。配った万歩計は30個、データをとって送ってくれた人は16人である。皆さん、まじめです。16人が合計60のデータを寄せてくれた。あとの14人の中には魚の歩数を測るとかで魚にやってしまった人が数名。

1クールで4000歩


わずか16人、60データで、しかも釣り場などはバラバラなので確定的ではないのは当然だが、傾向はわかる。どうだったかと言えば、下の図は1日の釣りで何歩歩いたかという総歩数である。車から降りて車に戻るまでの往復の歩数である。図をみると4千歩と8千歩にピークがあることがわかる。これは要するにざっくりと1クールと2クールである。

例えば午前中だけとか、午後だけを釣れば1クールで約4千歩。午前、午後もやれば2クールで8千歩、夕マズメも頑張れば1万歩を越えるということである。丸一日やれば結構歩いているのだ。

 

時速1km

さて、これをそのときの釣りをした時間で割れば時間歩数が出る。1時間あたりではどれくらい歩くかという目安である。ピークが1500歩、最も少ない 場合でその半分の750歩、早ければ2000歩以上のスピードで歩くことがわかる。1時間ではアバウトで1500歩程度である。

これは多いか少ないか。私たちが普通に平地を歩くときは分速100歩程度という。1時間では6000歩である。尻の下にかかとがあるような人もいるから歩幅は人によって違うが、1歩を65cmとすると、歩く距離は約4kmである。時速4kmが人の歩きの標準である。

テンカラでは1500歩なので、平均的な遡行の速さは普通に歩くときの1/4の速度であり、時速1Kmであることがわかる。普通の歩きの1/4ということは4倍の時間をかけて1歩歩くことだから実にゆっくりである。太極拳や能の歩き方だ。もちろんポイントでは止まり、次のポイントまで歩くのが渓流釣りだからこれはおしなべた速度であることは言うまでもない。
 
ベテランは遡行が速い
 
では、テンカラのキャリアと歩数には関係があるだろうか。ベテランになると、いわゆるポイントの見切りがはやく、サッサと遡行するような気がするが。図は略すがキャリアが長くなるにつれて遡行の速度が速くな り、再び遅くなることを示していた。

例えばキャリア1~2年の人では時間あたり1000歩以下だが、10年〜20年というキャリアの人は1500歩からそれ以上である。約1.5倍、遡行の速度が違うことがわかる。 さらにキャリア30年以上になると再び歩数が少なくなっている。

初心者の遡行が遅いということは一カ所で粘るからであるが、言い換えれば、魚が出るか出ないかの判断がまだ出来ていないので、出ないところでも手を換え品を換え、毛バリを換えて何とか出そうとしていることでもある。

キャリアを積むと「あ、これは出ない」という判断が早く、出ないと決めればサッと次のポイントを狙うという、いわゆる釣りのテンポ、見切りの違いが歩数の差になって表れている。

さらに30年以上とキャリアが長いと再び歩数が少なくなるのは単に歳をとったからである。万歩計1つでもこんなことがわかる。

渓流釣りは同じレベルの人と一緒の方がいいといわれる。遡行の速度が同じだからテンポよく釣り上ることができるからに他ならない。ベテランと初心者では必ずベテランが遅い初心者を待つことになる。「そんなとこ打ったって、出っこないのに」なんて心の中で思いながら。

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