阿寒川、阿寒湖のニジマスとアメマス

−本流テンカラNPなればこそ−(1)

 

阿寒川のニジマス、阿寒湖のアメマスはかねてよりの念願だった。いずれもYoutubeやブログで紹介されているので、一度チャレンジしたかった。

6〜7年前に茶路川のアメマス釣りの際、足を延ばして阿寒川のニジマスをやったことがあるが、ほんの一日でしかも時期はずれということもあって姿を見ること はなかった。

今回、案内してくれたのは奈良県在住の中山さんである。リタイアして今年で4年目。これまで4年間、7月1日を中心に毎年9日間阿寒に滞在して竿を出している。テンカラによる阿寒川のニジマス、阿寒湖のアメマスについては熟知している。テンカラマンとしておそらく唯一の人だろう。

昨年から阿寒の情報をメールで知らせてくれていた。地元では経験できない釣りなので、今回ぜひ一緒に行きたいと案内をお願いした。

先発している中山さんから逐一メールが入る。私の出発前日には阿寒湖で64cmのアメマスが出たというメールに頭はすっかり阿寒モードである。もっとデカイのもいるらしい。中山さんのアメマスの記録は75cmである。

阿寒川だけに「あかんがぁ」もあり得るが、あかん子じゃなく、最近はいい子でいたから絶対に釣れるはずだ。

釧路空港から1時間で阿寒湖である。地元愛知は酷暑のようだが、こちらは連日晴天とのことで気温20℃と快適である。場所は阿寒湖からの流れ出しの阿寒川C&R区間である。この区間のニジマスは放流ものが中心で、これが野生化したものとネイティブがいるようだ。

流域のところどころに温泉が湧出している。熱湯なので気をつけなければ。湯気でドロンと忍者のマネを。古典的な化石のような子どものポーズを爺が(+_+)

都合、3日間、阿寒川で竿を出した。C&R区間のほぼ全域を釣り上がったことになる。流域は河原がなく川一杯に水が流れ、川が傾斜しているのでその多くは押しの強い流れである。とくに上流域は激流地帯であり、フライはもちろんのことルアーでも釣りにならない流れが続く。

両岸には木が張り出しているところが多く、ラインをのびのび振れるところは少ない。サイドキャストを余儀なくされる。これらを考えて竿はシマノ本流テンカラNP、ラインはフジノのストレートライン3.5m、ハリスは最初はフロロの1.5号 。グリップから20cmに毛バリがあるコンパクトな仕掛けである。

毛バリは10番、12番の太軸のバーブレスフックにタングステンヘッドをつけたいわゆる撃沈毛バリである。バーブレスでもバレないことを確かめたい。

ニジマスのつき場はわかりやすい。50cm〜1m程度の深さ、流れが絞られている場所、流速は歩く速度あるいはその半分程度の流れ の条件が揃えばまずついている。流れには流木が沈んでいるのでこれを避けることも大事だ。トロ場ではライズはあるがマレである。

掛けるのは難しくない。毛バリを上流に打ち流れになじませる。ストレートラインのマーカーが垂直になるように竿をコントールする。マーカーがスッと止まればアタリだ。

ガツッ、ゴッという感触の直後、ニジマスの疾走が始まる。掛かればまず45cm〜50cmである。このパワーはすごい。最初の疾走を止めたら次に流れに入られないようにコントロールする。魚が大きければ長期戦になる。その間に取り込む場所を確認する。下流の荒瀬に入られたらバレるぞ。走られたらついて行ける足場があるか? せり出している木や枝にラインをとられないか ?

ひるんだら負ける。下らせればどこまでも下るからだ。竿を信じて強引に寄せるしかない。

次第に魚が疲れるのを待つ。ころあいを見計らって徐々に寄せ、竿を倒してラインをつかむ。ハリスをたぐり、引けばゆるめて徐々に間合いをつめる。

自分でランディングしたい。ニジマスは50cmある。2分間の力勝負の後、身体を横たえた。左手でネットを抜こうと腰に手をまわした瞬間、観念したと思ったニジマスがダッシュ。ハリスを離すのが一瞬遅れ1.5号のハリスがブツッ。 もう大丈夫と思って気が緩んだのだ。

フロロの1.5号ではもたない。ハリスの太さは関係ない。細いほど有利でないことがわかったので、それ以降はナイロン2号に換える。少しでも伸びがある方がいいと考えたからだ。 ただ、3号なら竿が折られる。竿が折れずハリスが切れるおりあいが2号である。

リールがあれば取り込めるだろう。リールのないテンカラではひたすら竿でやりとりするしかない。だからこそ面白い。下流でランディグのヘルプがあれば取り込める 確率は高くなる。しかし、ヘルプはいらない。ランディングするまでが釣りなのだ。

本流テンカラNPは本当に強い竿である。アメリカで本流テンカラのテストロッドや、NPで天然ニジマスやブラウンを釣っているがここまで大きくない。しかも流れはおだやかで激流ではない。

昨年、中山さんの某社の5mのテンカラ竿が2ヵ所で折れているだけに、今回はどこまで耐えられるかのテストが頭にはある。

もちろん50cmのニジマスを目的に設計したものではないが、50cmが取り込めるなら尺上のアマゴやイワナはわけないだろう。

今回の最大は55cmだった。そこは阿寒湖から阿寒川への流れ出しに近い激流地帯で、それだけにフライもルアーも誰も竿を出さない(出せない)。

瀬脇の巻き返しに毛バリを入れアタリを待つ。クッという微かなアタリ。合わせるとグンとした重みの後に疾走が始まる。魚は瀬を渡り対岸で止まる。こいつはデカイ。これは長期戦になる。 糸鳴りがする。下流は激流である。自分が走るどころか下流に下ることも難しい。

どうする。竿は大丈夫もつだろう。魚がこちらに寄るかどうかだ。ニジマスにテンションを掛けながら魚の疲れるのをジッと待つしかない。

2分経った。そろそろ寄せにかかる。魚を流れに入れた。身体がわずかに横を向いた途端、体側にまともに強い流れを受け一気に下る。

おっと!走られた! なんとか魚につかなければ。竿とラインは直線に近くなり余裕がない。手首を返しグリップを立て、少し引き寄せる。足場を確かめながらわずかに下流に下る。

右岸は大石があるので取り込めるのは流れとの間にわずかな隙間しかない。足を滑らせれば流される。この流れでは身体は止まらないだろう。命の危険がある。

竿を信頼して一気に勝負に出た。グイッと強く寄せた竿で魚の疾走が止り、同時に魚は瀬を横切った。パワーが落ちている。疲れたのだろう。後はランディングだ が、それ以上一歩も下がることができない。竿を倒してラインを掴みたいが岩が邪魔して魚は寄らない。

55cmあるビックサイズだ。どうしてもキャッチしたい。ハリスは切れないか。ハリが伸びないか。口キレしないかと頭をよぎる。

粘りに粘って、とうとうランディングした。

「やった!」

中山さんと握手した。重い!太いニジマスがネット一杯に横たわっている。写真を撮ろうと場所を移動した瞬間、ニジマスが跳ね、その勢いで タモから飛び出てしまった 。

シマッタ。あんなに苦労してやっととったのに。残念、くやしい。ネットが浅かったからだ。深く、柔らかなネットなら魚が丸くなるので跳ねない。フライのネットはそのように造られている。

「クヤシイ!中山さん、やっちまったよ」

「え? 逃げられた?」 

「そうなんですよ、ネットが浅かったから」・・・なんて話しているとき手にコッ。何だ!

「食ってる、食ってるよ!」

そうなのだ。何気なく流していた毛バリを新たなニジマスが食ったのだ。

また、さっきと同じやりとりである。今度こそとりたい。引きからしてサイズは少し小さいか?

激流を上流にグングン登っていく。止めなくては。先と同じ手順で寄せたが、私のネットでは入らない。中山さんがランディングを申し出てくれたのでお願いする。

一回り小さい53cmだった。放流ものだがヒレは綺麗にそろい尾ビレも大きい。ここはフライもルアーもまず手を出せない場所である。それだけに誰も竿を出さないので、数は多くスレていないのだろう。

印象としてC&R区間の魚は多い。フライやルアーが攻められないポイントはたくさんあるので、そこはテンカラの独壇場である。

掛けるのは簡単である。しかし、その後の疾走についていければとれる可能性が高い。激流に入られたらウンスンもなくハリがのびるか、ハリスが切れるか、口キレである。竿が折れる心配もある。ダメだと判断したら、竿とラインをまっすぐにしてハリスを切るしかない。

掛けても1/3とれればいい方だ。初めの頃こそ、慎重にやりとりしていたが日を重ねるにつれ、慣れるにつれ次第にテキトーになって、とれなければとれないでいいやと思うようになった。次から次に掛かるからだ。

ある場所では荒瀬の脇、長さで3mほどのポイントで中山さんがまず1匹。場をゆずってくれたので、その後で3匹。その間にウグイも混じる。

アタリがなくなりここは3匹で釣り切ったかと思ったので、場所を変え1時間後に戻るとまた3匹である。いったいどれくらいの魚がいるのだろうか。ネイティブのニジマスも出るが阿寒川では今回は最大で30cmであった。

テンカラをやる人はいないようだ。フライマン、ルアーマンからテンカラですか?と声をかけられる。リールのない竿でどうやって取込むのか? そんな竿ではという雰囲気も感じるが、 意外と阿寒川ではテンカラが最強かもしれない。

つづく

取り込んでホッ(動画)

激流地帯(動画

中山さんの取込み。竿は本流テンカラNP(動画)