契約社会

 

ダニエルから『Tenkara Magazine No.3』に原稿依頼があり、送ったところ雑誌編集社から契約説明書が送られてきた。わずか2000字あまりの毛バリに関する私見である。仕事において契約文書を交わすことはよくあるが、釣り雑誌に対しても交わすことに驚いている。

日本の釣り雑誌では、たとえば字数は3000字程度、写真数枚、地図もつけて、締め切りはいつまでというメールか電話による依頼である。原稿料はほとんどの場合、振り込まれて初めてわかる。事前にいくらになるかわからないが、筆者からいくら?と聞くことはない。そういう習慣である。釣り雑誌にかぎらず私の専門の雑誌でも同様であり、原稿料が事前に提示されることはマレである。

Tenkara Magazineでは150ドルか、あるいは300ドル程度の Tenkara USAの製品のどちらかを選択することができると説明される。言うまでもなく150ドルにした。18000円程度である。日本の原稿料よりやや高い。

契約書の主要な点が以下である。

もし貴方のご友人などが撮影された貴方や魚の写真を使用される場合は、撮影者の使用許可を取っていただき、その方からの文書での同意を私共にお送りください。また、ご提供頂いた写真にご友人等が写っている場合は、その方の画像がマガジンに掲載されて大丈夫かご確認ください。これについても文書での同意が必要になります。

これを厳密にしようとすると面倒である。誰かが撮った私の写真や、魚の写真を掲載する場合、撮影者の許可をとり、同意文書をもらわなければならない。さらに写真に自分以外の人が写っている場合には、その人たちに掲載してもOKか確認し、文書で同意をとらなければならないわけである。

これ以外にも細かい権利の説明があり、この契約内容に同意したと返信すると正式な契約書を送られて来るので、それにサインして契約成立である。実際にTenkara Magazine のアメリカ人の投稿者がそこまでしているかわからないが、もし忠実にしようと思えば実に大変である。

日本の場合、他人の撮った写真を使用してはならないこと、もし使用する場合には許可をとったうえで、撮影者の名前を掲載するのは常識としていて、いちいち文書で同意をとることはない。また、写真に釣り仲間が写っていることはよくあることで、 そのつど許可をとることはなく、まぁいいだろう程度で済ましている。

もちろん、これは釣り雑誌の場合であり、専門書の場合には同意文書をとらなければならない場合がたくさんある。

もし、日本でこれが厳密に釣り雑誌に適用されたら、雑誌は発刊できなくなるだろう。アメリカは多民族、多言語、多宗教、多文化の国である。細かい点まで事前に文書をかわしトラブルに備えなければならない 。

同じ民族(アイヌ民族もあるが)、同じ言語、同じ宗教、同じ文化の日本なればこそ以心伝心、察する、お金のことを言わない、損して得(徳)とるが可能なのだ。

国が違えばお互いがトラブルなく暮らすための手段に違いがあるのは当然である。どちらがいいというものではないと思いつつも、つくづく、ゆるい文化の日本でよかったと思うのは 私だけではないだろう。