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			朝6時、ダニエルの家にアレンと息子のニエルが来る。アレンはプロガイドとのこと。45歳ぐらいか。ニエルは15歳の高校生。今日も平日だが、ニエルも学校を休んでテンカラ。エライ! テンカラは今日で2回目とか。 
			  
			
			さぁ、コロラドリバーに出発だ。2時間半のドライブとのこと。ボルダーの街から20分ほどでロッキーを走る。両側にそそり立つむき出しの峡谷を縫うようにして爆走する。時速100km。幅が広いとはいえ、峡谷は1車線なので速度に慣れるまで肩に力が入る。 
			  
			
			
			いくつものカーブを曲がり、小さい町を過ぎてスティーブと合流。白いヒゲのダンディオヤジだ。50歳ぐらいだろうか。 
			  
			
			ひたすら走った気がする。2時間半のドライブは名古屋から富山、芦ノ湖、志賀高原に行く感覚である。日本の高速の2時間半とは違う距離を走っている。やがて右手にコロラドリバーが見えてくる。フラットで浅い流れだ。 
			  
			
			
			着いたところはウイリアムズホークという場所らしい。ホークのようにいくつかの支流が1本に合流する場所だからだそうだ。人気の場所らしく規則が明確に書いてある。準備をすませたところでアレンのチェックを受ける。キャップ、サングラス、水、フーズ、ライセンス、サンスクリーン。その都度OKと答える。 
			  
			
			「イッシー、日焼け止め・・」 
			
			
			「大丈夫。インディアンと同じ。インディアン嘘つかない。プロテクトいらない」 
			  
			
			
			インディアン嘘つかない、がわかる人は相当な骨董品である。彼らは紫外線を恐れているので、日焼け止めを塗りたくる。 
			  
			
			
			周囲の木々は黄色に色づき、水も黄金色に染まっている。葉は紅葉しないそうである。葉が落ちるとともに早い冬の訪れだ。もっともコロラド州では禁漁期がないとのことで、いつでも釣りができるのはうらやましい。 
			  
			
			
			対岸にわたる。こぶし大の底石がびっしり埋めていて、砂でもドロ底でもないが、結構ぬるぬる滑る。水の透明度は低い。踏み跡がしっかりついている。これまで回ったアメリカのどこもが「こんな山の中に?」という場所でも草が倒れ、土がテラテラになるほど踏み固められていた。 
			  
			
			
			ガイドは安全で、かつ魚がいる釣り場を案内するので、そこを訪れる釣り人が集中するからだろう。我々の前にすでに2組の釣り人がガイドとともに先行していた。 
			  
			
			
			釣りスタートである。ここにはビックフィッシュがいるとアレンは60cmぐらいに手を広げる。毛バリは普通毛バリでいいようだが、川幅は40mぐらいあり、ノペーとしていてどこがポイントなのかまったくわからない。 
			  
			
			7人が交互に釣り上がる。アレンが一番先にいく。ガイドなのでポイントを熟知しているからだろう。彼のやる場所がポイントに違いない。30cmぐらいの水深の、浅い早瀬に出た。そこはさっきアレンが竿を出しているのがチラッと見えた場所だ。 
			  
			
			「イッシー! ここはどうだ、やるか?」 
			
			「ここ!うーん?」 
			
			「やるかどうかお前が決めろ!」 
			  
			
			そうか、アレンは私を試しているな。 
			  
			
			「ノー! ここはノーフィッシュだと思う」 
			
			「その通り。上流へ行こう!」  
			  
			
			フォークの1つの支流を釣り上がるが誰にもアタリがない。「前に来たときは釣れたんだ」とダニエル。アレンは「ときどきあるよ」。はるばる日本からきて、そのときどきに当たってしまったのか! なんという不運。 
			  
			
			2時間たった。ランチである。アレンが全員のホットドックと水を配る。ダニエルがノンアルビールを用意してくれていた。ドライで喉が渇いているので、うまい! 誰もが今日はダメかと思っているランチの最中に、アレンが一人竿を出す。たぶん以前ここで釣れたのだろう。 
			  
			
			「ヘーイ!」 
			
			
			竿が大きく曲がっている。こいつはデカそうだ。上流にグングン上がっていく。ジャンプした。「レインボー」の声がかかる。アレンが走り回り、写真を撮るためダニエルが走る。竿がいっぱい、いっぱいだ。下流に走られると竿がもたないかも。 
			  
			
			1分ぐらいたったろうか。魚は瀬に乗って下る。竿がギシギシだ。突然、パキンと乾いた音を立てた。「折れた!」 ところが運よくダニエルが下流にいて折れた竿をつかみアレンに渡す。取り込んだのは45cmぐらいのレインボーだ。 
			  
			
			折れた竿はダニエルが作っている3.9mで2段ズームの「SATO」である。軽くするために竿の肉が薄いことと、全体のバランスが悪いので3番に負荷がかかるからだ。この経験はダニエルにとって勉強になったと思う。 
			  
			
			ちなみに、SATOは明治11年、日本で最も古い毛バリ釣りの記録とされる「立山登山日記」を書いたアーネスト・サトーからとったものである。 
			
			  
			
			
			アレンも私の釣りに興味津々である。後ろについて見ている。出ない理由に「イッシー 竿が悪い!」と冗談を言うので、「でも折れないよ」と切り返す。 
			  
			
			
			その後もまったく誰にもアタリなし。戻る!という声がかかる。やっぱりダメか。 
			  
			
			フォークの支流が1つに集まる場所に戻る。川幅は40mくらいある。深瀬、トロ瀬も早瀬もある。瀬の長さは大きく曲がりながら400mぐらいある。見えないものの底には大きな石もあって魚の
			つき場を作っている。 
			  
			
			
			出るならここだろう。これだけ太ければ魚もつくに違いない。ここで出なけりゃ、どこで出る。出んかいオラッ! はるばる日本から来たんじゃけん。 
			  
			
			
			瀬肩の石の前でガツッというアタリ。待望の初アタリだ。3時間やって初めてのアタリ。慎重に寄せると35cmぐらいのブラウン。うれしい記念のニコパチを撮る。しかし、これは爆釣のプロローグにすぎなかった。 
			  
			
			3時からの30分は夢のような時間だった。午前中はウンスンだったのに、突然のライズの嵐である。流芯の向こうでバシュ、バシュと音をたててライズが始まった。その数は無数である。 
			  
			
			ラインは3.5号を6m、ハリス0.8号で1.5m、毛バリはいいかげん毛バリの12番である。竿は4.4m。次のプロトタイプ完成版である。はるばる長竿を持ってきた甲斐があった。 
			  
			
			
			水面を軽く撫でるように引く。すぐに、そして必ずガツ!というアタリ。40cmぐらいのブラウンを数本取り込んだ。何本かバラすもののすぐに掛る。久しぶりに手が震え、アイにハリスが通らない。ダニエルとのダブルヒットもあった。バレても惜しくない。写真を撮られる時間の方が惜しい。 
			  
			
			
			今度はひときわ強い引き。こいつはでかい。これまでとは違う。慎重に寄せる。ラインをたぐり、ハリスをつかみ、走れば離すを繰り返しブラウンが目の前まで来た。50cmオーバーである。ダニエルも日本語で「ゴジュッセンチ」 
			  
			
			
			近くにいたニエルがネットを出す。「サンキュー、自分で取り込むから」ところがこれが裏目に出た。ハリスをつまみタモに手をやった瞬間にプツッ。ハリス切れだ。数本釣っていたので弱くなっていたのだろう。 
			  
			
			
			焦る、震える指でハリを結ぶ。またすぐにアタリ。フッキングの瞬間に大きくジャンプするが、体色からブラウンとわかる。これもデカイ。さっきと同じサイズだ。今度こそと慎重にやりとりする。ニエルがヘルプしようとするがこれも断る。またまたである。ハリスをつまんでタモをもった瞬間にブチッ。 
			  
			
			
			焦っていてハリスを換えなかったのが裏目に出た。0.8号なら持つと思ったのだが。ハリスを換えればよかった。伸びのあるナイロンなら余裕があったかもしれない。さらに1号とか1.2を使えばよかったが車の中だ。ベストに入れてなかったのだ。まさかり担いだ金太郎である。まさかこんなにデカイのが出るとは思っていなかったのだ。アメリカまで来て準備不足のアホタレである。 
			  
			
			夢のような時間はわずか30分だった。それまで底にいた魚が一斉に浮いてきたのだろう。やがて水面に何の反応もなくなった。誰もが数匹の尺上を釣った。ニエルも大興奮である。アレンのフィニッシュの声で釣りはお終いとなった。 
			  
			
			また2時間半のドライブである。時差ボケでよく眠れず、朝が早かったにもかかわらず疲れはない。フラットな川のアップダウンだったからでもあるが、30分の興奮が車の中でも続いていたからだ。 
			  
			
			
			途中の町でディナーである。夕日が町をシルエットに包み込もうとしていた。今日はフライドフィッシュを注文する。イギリス名物のフィッシュ&チップスとは違うが、単調な味である。 
			  
			
			
			ライスかパンがほしいが、これだけのようだ。ジョンとT・Jは食べるのが速い。だから太るのだと4Kg減量した私が言う。もちろん心の中で。明日はサミット本番だ。  |