テンカラサミット2014 in ボルダー

(1) ボルダーの街

 

コロラド州の州都デンバーに着いたのは現地時間の昼12時であった。成田から10時間のフライトである。時差は15時間。ということは今は日本では夜中の3時である。いつものことだが、今回も飛行機の中で一睡もできなかった。身体は夜中モードなのに、今は昼である。眼は醒めているのに身体が重い。眠いのだが、身体はなんとか昼モードになろうとしていて、自分の身体ではないようだ。

いわゆる時差ボケである。単なる寝不足とは違う。寝不足ならスッと眠りに入れるが、時差ボケは眠いのに眠れないのだ。頭もボケはじめているのに、くわえて時差ボケはつらい。夜12時に寝て、朝7時に起きる規則正しい生活をしていると、突然の昼夜逆転に頭も身体もついていけない。現地モードになるのに数日かかる。

デンバー空港のWelcome通路には今から100年以上前に撮ったであろうネイティブインデアンの大きな写真が飾られていて、この地がかってインディアンの土地であったことを物語っている。いずれの人物も厳しい視線をカメラにむけている。撮影したのは白人であろうが、インディアンの意思を視線に込めているようである。

今回はボルダー(Boulder)で開かれるテンカラサミット2014に参加するためである。これまでニューヨーク、サンフランシスコ、モンタナ、ユタのイベントに参加したので、今回で5回目である。

空港にはダニエルと奥さんのマーガレットが迎えに来てくれていた。さっそくデンバーから北西50キロのボルダーの街に向かう。ひたすらフラットである。真っ平らの平原を30分。時速は60マイル、100kmである。

感覚的に行きかう車の半数が日本車である。そのなかでもスバルが多い。聞けばフォレスタが人気のようだ。ダニエルもニューフォレスタである。燃費のよさとともに冬の厳しい環境での安心感が格段に違うようだ。私もフォレスタなので、フォレスタにふぉれますた人が多いことはうれしい。

前日にうっすら雪が積もったそうだが、今日は一転真夏の暑さである。Tシャツ、半スボンの人が多い。このよう激しい天候の変化は大陸ならではであり、だからこそ車には安心感が求められるのだろう。

ボルダーは標高1600mの高地にあるためマイルシティと呼ばれ、酸素は薄い。このためかって有森選手やQちゃんたちマラソン選手が高地トレーニングとして利用したところであるが、今では日本人選手はトレーニングしていないようである。

ロッキー山脈の付け根にある都市で人口は10万人弱とのこと。中心にコロラド大学ボルダー校があり学生数は3万人なので、学生の街でもある。高台から眺める赤いレンガの無数の校舎から大学の規模が とてつもなく大きいことがわかる。私の勤めている大学が6000人で20万坪なので、100万坪はあるのだろう。

ロッキー山脈から東へ約4000km、アパラチア山脈までひたすらフラットとのことである。日本列島が南北1500kmなのでその広さがわかる。事実、ボルダーから見る東は水平線までさえぎるものは何もないフラットな大平原である。

ダニエルの家はボルダーの中心地から10分程度のフラットアイロン(Flatirons)と呼ばれる岩盤の山に近いところにあった。アメリカの典型的な中流の家である。プールがあるような高級住宅ではない。 見かけは平屋だが2階建てである。

ダニエルに初めて会ったのが2009年のキャッツキル。キルはオランダ語の古語で川の意味らしい。つまり猫川である。Webでテンカラ用品販売を起業してわずか3ヵ月目であった。テンカラがなんたるかまったくわからず、技術も未熟で日本に対する知識もほとんどなかった。

このため、最初に造った竿にエビスという名前をつけた。エビスはビールのことではなく恵比寿様のことである。竿を持って魚を抱えているので、釣りに関係していると思ったらしい。Ayuという名前の竿を出したのも鮎はトラウトと思ったからのようだ。

それから5年。今ではモンタナとサンフランシスコに2人の社員、それと地元に女性秘書を抱えている。テンカラだけで30歳で家を買い、小さい会社ながらも社長になったのだから成功していると言えるだろう。日本ではテンカラでビ ジネスするのが難しいことは言うまでもない。

奥さんが日系アメリカ人で祖父母が山形に住んでいることも成功の要因だろう。日本の文化や習慣への理解がないと、つまり納豆を美味しいと思い、いただきますという意味が理解できないと。

毎年、日本に来て日本の文化やテンカラを知ろうという姿勢があったので成功したと思う。単に竿やラインを売るだけがビジネスではない。なぜテンカラなのか、日本の文化や習慣まで知った上で、それらを背景として売るのでなければならないだろう。

ダニエルはアメリカの釣り人はテンカラの歴史を含めて買いたい心理を見抜いている。アメリカでもいくつか通販のWebサイトがあるが、彼らはいずれも日本に来てテンカラを体験していない。ビジネスとして成功するのは難し いと思う。

家の近くのフラットアイロンに散歩にいくことになった。アイロンのように、真っ平らな岩盤が何枚もそそり立っている。ここは大学にも近いので若い人の散歩やランニングコースのようだ。平地ならなんともないところだが、高地のうえに、時差ボケとあって息が切れる。 ひょっとしてあの岩の頂上までいくのではないかと心配になった頃、Uターンでほっとする。

途中でダニエルがきのこを採る。ダイジョウブと日本語で言う。きのこ図鑑を持っていてこれは食べられると言うところは、日本の渓流釣り師と同じである。山菜もとるようでワラビは ボルダーにもあるとのことで、お気に入りのようだ。後日、きのこを食べたが、醤油につけて焼いただけのもので、スポンジの醤油漬けのような味(食べたことはないが、おそらく) であった。きのこは鍋がいいと思うよ。

サミット会場のホテルとデモンストレーションするボルダークリークを見た後、ディナーである。大きなピザだ。食べようと思えば全部、食べることができるが今は減量中である。88kgまで減らしたのに、アメリカンフードで元に戻るかもしれない。できるだけ食べないようにしよう。 同時に今回、食べたものを全部写真に撮ることにした。

明日はロッキーマウンテン国立公園で釣りとのこと。どんな場所でどんなテンカラができるだろうか。思いをめぐらしながら時差ぼけの夜を過ごした。その晩も寝れなかった。