Simple Fly Fishing

 

Simple Fly Fishing(地球丸発行 2750円)を読んだ。この本はパタゴニアの創業者のイヴォン・シュイナードと友人のグレイグ・マシューズ、マウロ・マッツォの共著によるものである。

良書である。翻訳者の東知憲さんの妙訳と相まって、イヴォンの現代文明への批判と、とるべき方向の哲学書ともなっている。巻末にフライフィッシングについてマスターするには十分でないと書いているようにテクニックについては期待できない。

ここでの詳細な解説は、この本の購読を控える人を増やすかもしれないのでやめるが、ぜひ読んでほしい。

『私はあらゆる試みを熟達させる方法は、シンプルさを追求することだと信じている。複雑なテクノロジーの代わりに知識を使うのだ。より多くのことを学べば、必要なものはより少なくなる。80年代、私たちは言ったものだ。「死ぬときに、おもちゃをいちばん多く持っていた人間が勝者だ」私たちは間違っていた。シンプルな生活は貧しい生活では決してないことは、テンカラ釣りから学ぶことができる。むしろ重要なのはシンプルさとは、より豊かな満足感のある釣り、さらには暮らしに通じるということだ』

イヴォンのテンカラとの出会いは、25年前に1本のテンカラ竿をもらったことにあるようだ。こんなシンプルな仕掛けで釣れるのか? やってみたら簡単に、しかもたくさん、そして深い満足。

それをきっかけにポケットが20もあるベストに一杯詰め込み、それでも足りないとばかりに、ラニヤードを首から下げるフライフィッシング。それとともに現代の際限のない物欲社会、消費社会のあり方への批判になっていった。

もう日本では死語であるが、ハリ、竿、糸、餌、オモリ、ウキを釣りの六物(ろくもつ)と言った。テンカラはハリ、竿、糸の三物で足りる究極の釣りである。 魚と人との間に介在する物がないほど釣りは面白い。

フライフィッシングが加える釣りであるのに対して、テンカラは削る釣りである。これ以上ないまでにそぎ落とした中にこそ、釣りの本質があると思う。

翻って、欲しいものを買うのではなく、必要なものを買う。本当に必要なものはなにか。もう一度、身辺を見直す機会を与えた良書である。