8年ぶりの北秋田

 

北秋田を訪ねたのは実に8年ぶりである。秋田県大館(おおだて)のテンカラ仲間の畠山さん、伊多波さん、山内さんと遊んだ。今回の目的は一度は行ってみたかった白神山地のブナ林を流れる渓流のイワナ釣りである。

地元、愛知から北秋田は遠い。大館の近くには八甲田、八幡平(はちまんたい)の名山があるものの、すんなり頭に地図が浮かばない。八甲田は青森県で、八幡平は秋田・岩手の県境にまたがっている。

大館市は広くは白神山地の南東にあたり、近くの山は田代岳である。今回はこの源流に行くことになった。秋田は米どころである。街を外れると続く緑の絨毯である。秋には一面が黄金色に彩られるだろう。

畠山さんのランクルがダートを走る。うねうねと高度をかせぎ、青森県との県境に近づいた山中に突然、大きな施設が。こんな山の中に何が・・。なんとロケットエンジンの噴射実験施設とのこと。JAXAのロケットエンジンの噴射実験をここでやっているらしい。たしかに街の近くではできない実験だ。こんな山の中と、最先端のギャップがすごい。

さらに峠を越え源頭に出た。ダードながら林道がついているので楽である。ブナの林の中を清冽な水が流れている。ここまで大館を出て3時間である。近いけれど、遠い。

4人で交互に釣り上がる。台風の雨の後で、まだ10cmほど水が高くポイントが潰れている。女性的な渓流である。これは白神のどこもがそうらしい。中部の山岳渓流のような大岩がつらなる荒々しい渓相ではない。

源頭だけあって放流のない自然繁殖のイワナのようだが、釣り人も多いとのことで、抜かれてしまうのだろうか魚の数は少ない。この日のイワナは大きくて23cmどまりであった。オレンジの斑点がなく、白い斑点が大きなアメマスのようなイワナである。イワナも北になるほど白斑が大きくなるようだ。

今回で彼らとの釣りは3回目である。行くたびに非常に居心地がいい。なぜだろうか? ゆったりと時間が流れているからだろう。あせらない。先を急がない。少し釣れればいいじゃない。もっと釣りたいという私の欲が、彼らといるとなんだか恥ずかしいものに思われてくる。

一日4時間。この日も午前2時間、昼をはさんで2時間。夕まずめなど毛頭ない。これで十分だ。私も満足である。白神の懐で竿が出せただけで十分に幸せだった。

その夜は八幡平の銭川温泉に泊まる。このあたりは湯治場がたくさんあり、有名なのが後生掛(ごしょがけ)である。8年前は後生掛に泊まったが、真夏だったこともあり、地熱のオンドルの部屋は暑がりの私にとって灼熱地獄だった。ここもオンドルと聞いて引いてしまったが、後生掛のようなことはないですという宿の人の言葉にホッとする。

ここは3名の女性だけで経営しているらしい。そのせいか宿のそこかしこに女性ならではの心遣いが感じられる。素泊まり3570円である。その夜は外でバーベQで、楽しく、かつゲップの夜だった。

宿から聞いたことのない楽器の音が。亀の甲羅にも、クラゲの頭のようにもみえる楽器を指でたたくハングドラムという音楽らしい。ハングとはたたくという意味らしい。スイスで8年ほど前に生まれた楽器で、日本の演奏家は7名しかいないとのこと。

はじめて聞く音である。我々のために即興で演奏してくれた。心の緊張がほぐれる音楽であった。その夜のオンドルは快適で爆睡の夜となった。

俺たちに明日はない、来年の保証のない歳になると、いつか、今度、そのうちに、は若いときの言葉だったと思うようになる。無理してでも行けるときに行きたい、それがかなったテンカラ旅であった。さて、今度の北秋田はいつになるだろうか。

ハングドラムの演奏(動画)

依田さんのYouTube