ジョンとポールの滞在記(その2)

 

ジョンとポールはともに40歳とのこと。ともに油の乗った年齢である。とくにジョンは油が乗っていて、スモウレスラーのような体型で「スモウレスラー」と言うと、腹をポンと叩くので本人も十分意識しているようだ。

その割に小食である。日本食が嫌いというのではなく、ともかく食べる量が少ない。ご飯は茶碗に1杯食べるか、食べないかで、しかもおかずを半分近く残す。こんな小食で どうしてあの体型なのか不思議である。私が朝から3杯飯を食べるのが信じられないようだ。まさか夜中にチョコレートやドーナツを食べているようにも思えない。

ともに納豆は好きでないと言う。味はいいが、口の中でネバネバして感触が悪いようだ。ほとんど食べない。Natto is not.

飯と言えば、ちょうど田植えシーズンで、そこかしこで田んぼに水を張って、稲が植えてある。これは何だ? これは rice fieldで、米になると伝える。ついでにriceは日本語で米と言うが、日本人はお米と言う。「お」はお母さん、お父さんなど大切なものに敬意を込めてつける。お米は日本人の魂であり、私のエネルギーのもとはお米とチョコレートであると。

するとジョンが「おテンカラ」「おヤマメ」と言う。なるほど、おテンカラとおヤマメ。確かに「お」をつけてもおかしくない。なら、これからおテンカラと呼ぶことにしようと言って、おテンカラ、おテンカラと呼ぶ私は頭がおかしいに違いない。

週末に再度、2人に合流した。その間、荘川や高原川へ案内されたようだ。西郷ドンの案内でふたたび石徹白の本流に行った。夕マズメになって羽化した虫の名前にもめっぽうくわしく、オオマダラなんたらの、なんだかホールが今、起きていて、これが水面に落ちると魚がそれをねらってライズする。この流れの上空にはあり、ここから下流の上空にはない・・・など。

真上を見上げる首が痛い、腰がそらない。さすがに尺ものハンターと呼ばれるだけあって、虫の名前も一切知らず、羽虫としか言えない私とはデキが違う。

7時を廻るころになるとバシャ、バシャとライズが始まり、浅いところのライズを狙ってテキトーに毛バリを打って、かすかに誘いをかけるとバシャとアタリ。

これは結構引くな。尺はアルカポネ。手尺であるが34cmの丸々太ったイワナである。本流のイワナは餌をたっぷり食っているようで幼児言葉でおなかはぽんぽんである。

翌日はつり人社の八木さんの取材である。これまでFly Fisherだったが、この4月から渓流担当になったそうで、自身、フライマンなのでテンカラはこれまで未体験。英語がペラペラなので彼らの取材にはうってつけである。

あらかたの写真撮りが終わったというので、テンカラをやってもらった。八木さんだけあってテンカラも「うめぇぇー」。キャスティングはうまいし、狙いも正確である。シンプルで無駄のないところがテンカラの長所とすばやく見抜く。

途中、テンカラ竿をブンブン振っている若者がいた。どう見ても初心者である。せっかくのテンカラの縁である。余計なお世話かもしれないが・・と声をかける。今日はテンカラがはじめてとのこと。このままならボウズで終わるだろう。レベルラインを分け、仕掛けを作ってやり、毛バリを3本プレゼントし、キャスティング、狙いどころ、流し方を一通り教える。

知的レベルの高い人のようだ。教えたことを順序だてて理解しようとする。キャスティングもすぐに上手くなる。フォームも様になった。これならすぐに釣れるに違いない。

夜になってTカメラマンから「関係者がお世話になりました」との電話。どうやら若者はTカメラマンの仲間の関係者らしい。なんとその後、20匹釣ったそうで、この勢いでフィッシャーズホリデーに参加するとのこと。

なんだか亀を助けた浦島太郎の心境で、乙姫様のお迎えがあるのではないかと内心期待している。乙姫様のお迎えと思っていたら、観音様がお迎えに来るかもしれないので、気をつけなければならない。

最後の夜は彼らの歓迎バーベQである。山の奥の奥なのにイセエビ、サザエなどの海の幸は石井さんのツテによるまさかの食材である。イセエビを食べるのは20年ぶりくらいだろうか。このほか焼肉、シロコロホルモンなどなどゲフッとなるまで堪能した。ジョンは相変わらず食が細い。不思議だ。

宴は深夜まで及び、腹一杯たべたが、私が明けての朝食で3杯メシを食べて完食だったので、私を見る二人の目の色が青くなっていた。

大釣りしてほしいので、彼らの日本での最後のテンカラはC&Rをやった。私もジョンも疲れていたので、川を挟んで向かい合い石に座って毛バリをふった。釣れても釣れなくてもいい。

山の端に陽が落ちてすでに1時間。次第に夕マズメが近づく6時40分15秒3になると、最初のアタリ。クリッとラインがフケて1匹釣れる。

石に座って釣れるならラクチンでいいなと思って流すとまたまたクリッ。動かないので、毛バリを上流に打って流し切るまで流す。

なんと同じ石の上から8匹である。アマゴ1でイワナ7である。最大はイワナの25cm。それだけ魚が濃いからであるが、夕マズメの時合いになったら、かえって動かずに、座ったテンカラ「座りテンカラ」の方がいいかもしれない。座りションベンという言葉もあるが言葉は似ているが、意味は違うので誤解のないように。誰も誤解しないって。

不思議なことに、バシャバシャとライズが始まると同時に、ピタッとアタリがなくなった。おそらく一斉に水面を流れる小さい虫を食い出したのだろう。アタリがとまるとともに彼らの日本のテンカラも終わったのだった。

前日、本流がそれなりによかったという情報で、ソレッと出かけた仲間はボウズであったそうで、ライズの一つもなかったようである。どこがどう違うのか魚の不思議である。

不思議と言えば、C&R区間の魚たちは明らかにリリースされることがわかっている。写真を撮ろうと、イワナと目が合ったとき「遊んであげたのだから、逃がしてくれるんでしょ」という目をしていることに気付いた。一番下の写真のイワナの目はそのように見える。私には必死の目ではないように思えるのだ。

彼らを名古屋駅まで送り私のアテンドは終わった。東京でどんなカルチャーショックを受けるのだろうか。