移動ホームレス車の3日間

 

根羽川講習会の翌日からは、暇で暇で困っていることから、暇野(Himano)に改名した牧野さんの移動ホームレス車で3日間を過ごす。

やっぱ高原川でしょ!というわけで1日目は高原川へ。天気晴朗なれど水多しで、水位は10cm高く、水温は朝の9時で10℃である。

瀬は真っ白で、フライマンには瀬でやろうという気はとても起きないだろう。撃沈毛バリのテンカラの独壇場である。そこそこ遊んでもらって突然、時間は午後3時13分である。夢中で釣り上がって気がつかなかったがフト、下流にはテンカラマンが2人。その距離30mである。

我らがやったところを打っている。今、テンカラがやったばかりのところを打ってもまず出ないだろうに、してみるとあまり経験のない人たちかもしれない。同じテンカラマンなので声をかける。

東京から来ているという。うち一人は東京トラウマカントリーで私の話を聞いたらしい。みれば普通毛バリを使っているし、レベルラインはよれよれにキンクしている。これでは無理かもねむなので、私のラインを分け、撚りのとり方を教え、撃沈毛バリを2つづつプレゼントする。

せっかく東京から来ているのに、このまま1つのアタリもないのは気の毒である。撃沈毛バリの使い方を教える。さっそく我々の上流に入って、即、ホーライマスを掛けて大喜びである。本当にうれしそうで、こういうときは自分が尺ものを釣ったよりもうれしい。

その夜、露天風呂の後は飛騨牛の焼肉である。1枚づつ丁寧に焼く。一人1パックなので、フィッシャーズホリデーのときのように、とられることを心配して生焼けを口に押し込むこともない。じっくり1枚づつ焼いた焼肉は本当にうまい。

移動ホームレス車を改造してくれたので90cm×190cmのベットで快眠である。翌朝、暇野さんは早朝特訓で33cmのイワナをほかに数匹。

予想通りの雨。今日は長良川に行くことにする。長良川は本流のいい季節であるが、これも水温次第である。着いた頃には本格的な雨になり水温も下がったようだ。水温10℃。案の定ウンスンである。こうなれば支流しかないだろう。

支流で竿をふっていると、ムッシュさんからテンカラ仲間のSさんが南アルプスの登山で遭難したらしいとの連絡が入る。この雨は南アルプスではさらに強いだろう。本当に心配である。しかし竿は出す。その支流は水が澄んで適度に広く水温さえ高ければ、小さいながらも楽しいテンカラができるだろうが、なにせ冷たい雨である。水温10℃。

その夜のうちに石徹白に移動。今晩はうどんである。途中のドラッグストアで食材を仕入れる。生うどん1人前がなんと18円である。これに具をグチャグチャ入れても1人前50円にもならないが、ゲフッっとする量になる。みればうどんだけでなく蕎麦も焼きソバも18円である。18円の会社は採算があうのだろうか。

雨が上がり星空になるとともに猛烈に寒くなる。おそらく2℃くらいに下がっているだろう。この雨では南アルプスはみぞれかもしれない。この寒さにSさんは耐えられるだろうか。心配でしばらく眠れず。

6時、朝霧の中に石徹白の集落があった。もう誰か竿を振ってるぞ。テンカラだ。うれしいことになんと渓流テンカラを使っているではないか。さっそく声をかける。川島さんとのこと。フライを10年やって今年からテンカラに転向した途端にバカバカ釣れるようになったそうである。

なんでもっと早くからテンカラをしていなかったかと川島さん。お兄さんも餌釣りからテンカラに転向して面白いからお前もやれということで、今はテンカラ兄弟であるという。テンカラに かわってよかったと心から楽しそうである。

楽しみ方なので、どのような釣りをしようが口を出すことではないが、フライの人の中にはこうでなければ釣れないと思いこんでいる人が多いように感じる。初日に高原川で会ったフライマンも、あの激流の中でドライフライである。聞けばドライでなければ釣れないと思っているようで、一日やってアタリすらないと言う。

毛バリが合っていないと思っているようだ。毛バリではないと思いますと撃沈毛バリを見てもらう。こんな毛バリで!と驚いたようで、ではと3本プレゼントする。柔軟に、自分をしばらず、自由に、ユルユルと、フレックスに、楽に、いい加減に、テキトーに、アバウトの方がよく釣れるように思う。

今日はGWの最終日。散々いじめれられたようで魚の出方が渋い。水温10℃である。この3日間、どこに行っても10℃である。おかしいな? 水温計をみたら10℃を示したまま壊れている。アバウトなところがテンカラのいいところである。

活性が低い。水深が50cmあると反応しない。そうか、たった50cmだけれど水面まで出る活性がないのだな。ではと底石がゴロゴロしている浅瀬を攻める。くるぶしくらいの深さで結構アタリがある。全部イワナだけど、それが何か?

適当に遊んだところにムッシュさんから、助かったとの連絡。足首骨折で動けなかったようだ。よかった、本当によかった。目の奥がジュンと熱くなる。痛みとともに、あの雨と寒さの夜をよくぞ耐え抜いたと思う。これを機会にテンカラに専念してくれればと思う。

薫風の5月のテンカラもあと1カ月で梅雨空のテンカラになる。汗かきの私にはツライ季節が来る。乾いた季節のテンカラをしばらく楽しむことにしよう。