秘密のケンミンショー 富山県民は・・・
 

上州屋富山空港通店での講習会。富山で一般向けの講習会は初めてである。数名も参加すればと思っていたところが15名を越えて立ち見の人まで。

富山の渓流釣りはマイナーである。目の前に天然いけすの富山湾があり、四季折々にさまざまな釣りができるとあれば海釣りが盛んなことは当然だろう。少ない渓流釣りの中でさらにマイナーなテンカラとなれば・・。まさか集まった15名余りがテンカラファンのすべて、なんてことはない。

なぜなら泊まったホテルα-1のホテルマンがテンカラ仲間だからだ。仕事を含めいつもここに泊まっている。朝食つきで4500円程度、駐車料金無料、サウナつきの展望風呂。肝心の朝食は和洋、食べ放題でゲフというまで食べられる。

なにがいいかと言えばベットと枕の硬さである。体重の軽い人にはわからないだろうが、私のように90Kgあると柔らかいベットでは身体が沈みこんでしまって寝返りが打てないのだ。そのため腕を使ってヨイショと寝返るので、その都度、目が醒めてしまう。一晩20回程度あるという寝がえりのすべてで目が醒めるわけではないが、当然、眠りは浅くなる。

枕も安眠に重要である。枕が替わると眠れない。とくに窒息しそうなくらい頭が沈むフワフワの枕は最悪である。これでは枕がないのと同じで翌朝は首が筋肉痛になっている。そういう枕の場合、枕カバーの中にシャツや下着などを詰め込んで硬くする。このホテルは枕が2種類おいてあるので、ベットと枕で安眠できる。

午前中は店内で講習である。富山県民は・・・シャイである。いつものギャグが空回りする。「ここは笑うところですよ」でクスッとする程度で、先行者がいる魚の反応のようである。ここで笑っていいのだろうかという思いが顔に出ている。次第に慣れてくるに従い、顔にほころびが出て、笑い声も出るのだが、それまでに時間がかかる。

これは富山県の県民性だと思う。持家率日本一。家の敷地は広い。背後には立山を筆頭とする深い山があり、黒部川をはじめとする無数の川がある豊かな自然。米に代表される農産物。雪も深いが、夏は暑いというメリハリのある四季。目の前の富山湾の天然いけすに魚が泳ぎ、そこの魚を食べる。つまり、日本の良さ、素晴らしさをすべてもった県が富山県なのである。

道路は広い。しかし車は少ない。だからと言って乱暴な運転はせず穏やかに走る。あくせくしなくても食べていける。あわてることなく、ゆったりと。そんな県民性がギャグへの反応にも出ているように思うのだ。

大阪は違いまっせ。ギャグを言わへん、出へん講習や講演はつまらんがな。私のどうしょうもないオヤジギャグでもドッと笑いが出まっせ。ギャグにギャグで返してきまんがな。ノリが違うんや大阪は。

大阪から東に行くにつれて反応が少なくなる。東京で笑いをとるのは大変である。昨年のパタゴニアでの講習会では最後までクスッともしないで、にらみつけている人がいた。大阪とはノリが違う。さすが浅草ノリの本場である。東京の生活はストレスが多いに違いない。

私はお笑い芸人ではないけれど、笑ってくれる方がこちらもやっていて楽しい。私には楽しんでもらおうとか、面倒見の気持ちが人一倍強いように思う。講習会ではテンカラウイルスが付着した毛バリを配る。人に配る毛バリをせっせと巻いている。 良く言えばお人よし。要は脇が甘いのだ。甘いだけでクサくはないです。

講習会は上州屋のゆるキャラ亀田、通称、亀モンとの古くからのつきあいでボランティアでやっているもの。亀田さんは石垣先生をお招きしてと言うので、上州屋からお金が出ているだろうと誰もが思うようだが、アゴもアシも宿も全部、自腹。これはお招きではない。テンカラを広めたい、ただこれだけでやっているのです。これも脇が甘いから。

しばしば言われるのは、シマノの竿が1本売れるといくら入るのですか? シマノから1円ももらっていないのです。こういう竿があればいい、こういう竿があればテンカラをやる人が増えるだろうなと思う竿をシマノに作ってもらっている。お金の話はしたくないのだが、どこに行ってもそう言われ、思われているので、この際、書いてみた次第。

お決まりの毛バリ巻き。お決まりの質問。こんな毛バリで釣れるのでしょうか? 大丈夫。午後の講習会はこの毛バリを使うことをお願いして実釣である。

これも定番のキャスティング練習の後に全員で川へ。12名ぐらいいるかもしれない。川を前にして釣りたいばかりの人の前では難しいことを言っても頭を素通りするので、言うことは3の3である。

1つ目の3は「3秒間流す」。3秒以上流さない。なぜ3秒なのか。魚が毛バリに気づく、追う、くわえるタイミングがほぼ3秒だからだ。2つ目は「3回流す」。1つのポイントを3回流して反応がなければ次に移るというもの。これを 「テンカラの3の3の法則」と言う。3の3で散々ということもたまにあるけれど。

もうひとつ、決まって言うことはポイントは自分で造る。上流に行ったら下流を見て見よう。下流からは見えなかったのに上流から見れば「あ!あそこもポイントだ」とわかる。つまり、1粒で2度美味しいように1ヵ所で2度攻める。

ポイントがわかったからと言って、その都度、下流に下がるのは面倒。そこで効果的なのが止め釣りというわけで、止め釣りはこうやるのです、とデモしていたところにドカン!とイワナが。尺ものだ。これ以上のデモはない。言行一致。有言実行。しかも尺ものとあって、穏やかな富山県民の目がメラメラと燃えたのを私は見逃さなかった。

ジルジル、ジュルジュル、音が聞こえるぞ。この音はなんだ? これはテンカラウイルスが脳にしみ込んでいる音なのであった。確実に感染した。では、やってくださいという合図で、皆さん思い思いの場所へ。ほぼ全員が釣れて一般向けの講習会は終わったのでした。

翌日は上州屋のスタッフ向けの講習である。渓流釣りが初めてとか、イワナを見たことがないというスタッフもいる。テンカラがマイナーだけにテンカラをやりたいいうお客さんが少ないので、接客もなんとかなるのだろうが、やったことのない釣りの竿や仕掛けを薦めるのはツライだろうなと思う。

結果はまったくの初心者でも釣れて、難しい思われているテンカラがこんなに簡単だったとは、が共通の感想である。これならお客さんに自信を持ってテンカラを薦められるだろう。北陸でテンカラが少しでも普及することを夢見て、今晩も硬いセンベイ布団で寝ることにしよう。