2012テンカラサミット in ユタ 

(6)アメリカのテンカラの今後

2009年のキャッツ・キルをかわきりにカリフォルニア、モンタナ、そしてソルトレイクと4年間テンカラの講演を行い交流してきた。テンカラは日本同様、まったくマイナーな釣りであるがマイナーなりに今後、広まるのは早いように思う。

ダニエルのWebサイトを筆頭にテンカラはビジネスになるという嗅覚からたくさんのサイトが出てきたからである。そのほとんどがテンカラのガイドだ。3人のテンカラガイズもサイドビジネスでガイドをしている。

中野さんによればガイド料はランチ込みで一人1日350〜400ドル+チップらしい。日本円なら3万円といったところか。遊びに払うガイド料は高いらしい。2人までOKらしいので十分ビジネスになる。ガイドが評判をよび、お客さんがつけばこれだけでやっていけるだろう。日本ではテンカラのガイドは絶対に仕事にならない。

3人のテンカラガイズもガイドを本業としたいようだ。というのはジョーンは現在、無職。ときどき1時間10ドルのバイトをするらしい。訊けば日本人には信じられない職歴である。消防士を20年やり、その後、警察官を4年、そして自然保護レンジャーをやり、ヘリコプターのパイロットをやった後、現在、無職。こういう職歴をたどることが理解できない。消防士の年金でなんとか食べていけるらしい。

彼は好人物である。十分な意志の疎通ができないが考えていることがわかる(ような気がする)。剣道2段、居合道3段である。リトルコットンウッドの岩の上で居合道の演武をした。そして抹茶のおもてなしである。茶道具一式持ち込んでいる。釜は今から150年前のものらしい。

ジョーンの居合(動画)

まさかアメリカの渓流で居合を見てお茶を飲むとは思わなかった。緊張のあまり息をつめていて、我慢しきれずにプッと息を吐いたので、茶灼ですくった抹茶があたり一面飛び散って、頭をかくという面白い人である。

正座をすると膝が痛いので袴の下にはプラスチックの膝当てをつけ、それを見せてニコッとする。Robも正座で座らされ足がしびれてとても我慢できないようだ。という私も足のしびれで、早く終わってくれ・・・。

このように日本びいきなのだが、なんと2004年アテネオリンピックのアーチェリーのアメリカ代表を決める大会で4位。3位までの出場で残念ながらオリンピック選手になれなかったそうである。

ただ、単に面白いオッサンだけでなく多彩な才能の持ち主のようだ。私にその大会で射た矢をプレゼントしてくれた。いいや、そんな貴重なものは、いやいやもらってほしい。そんな貴重なものを・・・ぜひもらって・・・を日本式に3回繰り返してからもらった。

男はどこも同じだ。ジョーンに日本の12本入りのハリをプレゼントした。このハリは貫通力があるよ。ジョーンは腰をズンと突き出し、俺のも、とニコッとする。Robは長さも太さも田縣神社(たがたじんじゃ)のご神体にも見える自作のタモの柄を腰にあて、皆に見せて、どうだ俺のは・・・・。

急速にテンカラがアメリカで知られるようになったが、技術的にはまだまだである。知られて4年。日本のテンカラマンのレベルに達しているのはダニエルくらいのものだろう。Robもなかなかであるが。

ガイドからすれば、フライフィッシングより簡単で、しかもよく釣れるテンカラは絶好のアイテムと思う。日本の伝統的なフライフィッシングは新しいもの好きなアメリカ人にアピールするだろう。フライに比べてキャスティングがすぐできるので、その分、魚を釣ることに時間を割くことができ、お客さんを満足させることができる。

まだ知られて4年。ダニエルがアメリカ各地でテンカラの講習会を行っているが普及には限界がある。ガイドを目指す人たちがさらにレベルアップする必要があろう。アメリカのテンカラの普及などどうでもいいじゃないかと言われそうであるが、テンカラは日本の伝統的な釣りである。

日本のものが正しく向こうに伝わらない例は枚挙にいとまがない。テンカラがとんでもない釣りとしてアメリカで普及しないとも限らないのだ。事実、アメリカでテンカラについて最初に書かれた本の表紙の絵はなんとコチの絵なのだから。なぜコチの絵なのか。いい気分ではない。

それにはガイドを目指す人たちにテンカラを正しく知ってもらうことである。技術だけなく、その背景にある日本の文化も。ぜひ、彼らが日本に来て、日本の渓流でテンカラを体験してほしいものだ。ダニエルがガイドを集めた日本テンカラツアーを企画しないものかと思う。

ナンバープレートにTENKARAが。お金を払えばいいようだ。コロラドから来た人も私もTENKARAと言っていたので結構、走っているのかもしれないが、その意味が伝わるまでには長い時間がかかるだろう。日本だってテンカラと聞いてわかる人は関係者だけなのだから。

おわり