2012テンカラサミット in ユタ 

(4)水と緑は日本の資源

今回、いくつかの渓流を案内してもらった。ソルトレイクに着いた日の夕方、ジョーンが案内してくれたのはホテルから30分のコットンウッド。綿の木川だ。下車30秒で竿が振れる細流なのだが、掘れているところには尺ものがいるらしい。ブッシュをかぶっているところも多いのでロスト毛バリも多い。毛バリまで3.5mの仕掛けがベスト。さっそく山川さん、田中さんが尺のブラウンを掛けた。

翌日はリトル・コットンウッド。コットンウッドをやや広くした渓相で、2つの川とも花崗岩と綺麗な水のため、植生が違うのを除けば日本の渓流にそっくりである。綺麗な水といっても日本のようなジンクリアではなく、飲むのはちょっとためらわれる。

この川でカットスロートが釣れた。ここはという淵に毛バリをしずめ、グルグル廻る反転流に乗せているとき、ズン!と来た。レインボーに似ているが直感的にこれは違う!

頭から背びれにかけてレインボー特有の黒点がないのだ。裏返せばエラにあざやかなオレンジが。喉を切られた魚でカットスロート。なかには真赤の奴もいるらしい。その他、タイガートラウトもいるとのこと。身体はレインボーだが顔がタイガーマスクに似ているらしい。まさか。

イベントの翌日、Robが案内してくれたのがナントカクリーク。ナントカ沢である。ソルトレイクから2時間近く走り、2200mのなだらか峠を越えた先にある小沢である。渓流という雰囲気ではなく、高低差がないため水の流れはいくつものカーブを描きながらゆっくり蛇行している。

ここもブラウンとレインボーだがほとんどがブラウンとRobが言う。え? こんなところに?と思ったが、川に沿ってしっかり踏み跡がついていて、しかも場所によってはテラテラと踏み固められており、ここで竿を振る人が多いことがわかる。

周囲の山は赤土に低い灌木がまばらにはえているだけで、植生からみてかなり高度が高いことが伺える。河底も赤土で、ところどころに小さな底石とカーブの曲がりにやや深い小さなポイントを作っている。

ここには石原さんと入った。最初、魚の着き場がわからなかった。どこにいるのか? やがて石原さんが岸際にかぶったブッシュの陰からヌラッと出た尺クラスのブラウンを掛けた。そうかこういう場所にいるのか。

石原さんの取り込み(動画)

着き場がわかれば簡単な釣りになった。底石があっても瀬にはいない。岸ぐろの石の陰にもいない。流れがカーブして、それが50cmから1mに掘れたブッシュのポイントただ1ヵ所である。ポイントに毛バリが入ればまず出る。出た、魚が止まる、合わせる、掛る。毛バリの流れ方が違うとチラッと毛バリは追うものの深追いはしない。そんなところはイワナ的である。

釣れるのはほとんど12インチ(30cm)程度で、これより大きいのも小さいのも出なかった。スレていない。これだけの細流で、しかもフラットな流れなのに水の中の岸ぐろを上流に歩いても、その後でも毛バリに出るからだ。スレた日本の渓流ではまず考えられない。

別日に、Robとジョーンが案内してくれたのはプロボ川のかなり下流ではないかと思う。ここは広いところで川幅が40m程度あり、川幅一杯に強い流れが押しているところである。ラフティングやカヌーが頻繁に通り、子供たちに水鉄砲で水を掛けられる。

ラフティング(動画)

ここも着き場がわからない。傾いた流れのどこに? 魚が止まる岩も石もない。Robが掛ける。レインボーの40オーバーだ。私に来いと手まねき。6番サイズの毛バリに出たとのこと。川の中が2mくらいの深さに掘れていて、そこでは唯一のトロ場になっている。ここなら出るかもしれない。ここは彼が何度も実績をあげている場所だという。

例によって思い切って上流に打ち、穴の中に押し込むように沈める。ラインがもぐりこむように沈んだところでラインを張り、竿先を動かし誘いを掛ける。同じことを繰り返して、もうダメかと思ったとき、ズン!

引きからいってまずまずのレインボーだろう。慎重なやりとりの後、ランディングしたのが40cmのレインボー。これが今回最大になった。同じ場所でRobが釣り、私が釣ったので、もうそこからは出ないだろうと思っていたら、なんとRobがヒット。結果バレてしまったが毛バリを14番サイズに替えたという。

ウーン、Robはやる。毛バリサイズを落とすということは考えなかった。ドクターだけにクレバーだ。3人のテンカラガイズの中では全体をみて指示的な役割をしているのもうなずける。

今日でソルトレイクともお別れという朝、ジョーンがアメリカンフォークに案内してくれた。フォークのように支流が分かれているかららしい。ここはリトル・コットンウッドに似た川である。近くに鍾乳洞があるそうで、そのせいか水質がこれまでの中でもっともいい。

川が小さいだけに釣れる魚も尺が最大であった。日本の渓流とそっくりなので魚の着き場もまったく同じである。ただ日本ではよくある小場所からの反応がまったくない。浅いところからもない。さらにまだ時間帯も早かっただろうか瀬尻からもない。そこがわかると攻めるポイントが絞られ、わずか200mやっただけだがここではよく釣れた。

1.5mぐらいの深さのある暗い淵から出たのは黒いブラウンである。これまで茶色から黄色っぽい明るいブラウンばかりだったので、この色黒ブラウンはカエルのようなイメージである。

今回、いろいろなところを案内してもらった。いずれの川も車を降りて数分で竿が出せる場所、つまりほとんど歩かない釣り場であること、しかも、そのいずれもがしっかり踏み跡がついていて釣り人が多いことを伺わせる場所ばかりであった。

これまで、ニューヨーク近郊のキャッツ・キル、カリフォルニアのヨセミテ、モンタナ、そしてソルトレイクでテンカラを振ったが、わずかな経験であるが「日本の渓流」をアメリカに求めるのは無理かもしれない。乾燥した大地のアメリカと、水と緑が資源の日本ではおのずと渓流環境が違うのは当然である。

うっそうとしたブナの森の中を清冽な水が流れる日本の深山幽谷。おもわず神々の住まうところとして畏れすら抱く日本の源流。もののけ姫の世界はやはり日本だけかもしれない。

どこの川にも源流はあるので、今回まわった川でも源流をつめれば日本のような段差の連続する渓流があるのだろうが、おそらく低い灌木と岩だらけの乾燥した環境かもしれない。そこにも魚がいるかもしれないが、そこまで行かなくても下車1分で魚が釣れる場所がある。

日本なら下車1分で尺ものが釣れる場所など皆無だろう。それだけ魚が多いのはライセンス(釣り券)なしの釣りに対する厳しいペナルティと、一日2匹という制限を守る国民性によるものだろう。掛ったものはゴミ以外はすべて持ち帰る日本の現状。せめて匹数制限ができないものかと思う。

すべて自然繁殖。放流は一切しないでもいくらでも魚がいる。フィッシングをスポーツとしてレクレーションとして楽しむ国民性。今回、釣れた?とは聞かれても、何匹釣れたと数は問われなかった。ビックサイズはどれくらい? ファイトしたか? 数釣ったことよりいかに大きな魚を釣ったかに価値を見出すようだ。

つづく