2012テンカラサミット in ユタ 

(3)実釣デモフィッシング

実釣デモの場所はプロボ川の途中にいくつかある貯水ダムの下流である(タブン)。そこはソルトレイクから40分ぐらい走ったオーレム市の公園になっていて、アメリカのどこもそうなのだが施設が整い芝生が綺麗である。アメリカの豊さを感じる。近くでパンパンと音がするのは屋外射撃場があるらしい。

肌を刺すように暑い。暑いが乾燥しているので不快ではない。私たちモンゴリアンは日焼けに強いが、彼らは日焼けに神経質だ。とくに顔から首筋にかけて麻のような布で保護する。通訳してくれた中野さんも真似しているが、アルカイダみたいなので止めたほうがいい。今さらするまでもなく、すでに真っ黒なのだから。

公園の前の川は一目見て、底石に水草がつき、水はうすく色がついてクリアではない。岸よりの水草は茶色く腐っている。貯水ダムの下流なのでこれは仕方ないところだ。

ダムの底水を放水しているらしく水温は15度前後で結構冷たい。放水のため水が高いらしい。乾燥したユタ州でよくこれだけ水があるものと感心する。途中、いくつもの貯水ダムを経てユタ湖に流れるようだ。

プロボ川の源流がどこなのかわからないが、源流には万年雪があるのかも。ソルトレイクが標高で1800mぐらいなので、はるか遠くに見える山々はそんなに高いように見えないが海抜4000mを越えているのかもしれない。

さっそくデモフィッシングである。魚はブラウンとレインボーらしい。Robがいつもここなら実績があるという荒瀬からトロ場にかけての長い瀬を攻めるが、ウンスンである。

アメリカでも講師が釣れないデモをやってしまった。この後、ダニエルがやろうがエリックがやろうがウンスンである。まったく反応がない。魚が毛バリを触ることもない。

ダニエルは魚がどこかに移動したというが、私はそうではないと思う。まだ午前中だ。ダムから流れる水はまだ冷たい。水温が上がれば出るようになるよ。魚だってまだランチを食べていないのだから元気が出ないだろう。まず、我々もランチにしようではないか。

ランチには少し早い午前中だが、誰かが「ランチぃ」と声をかけるでもないのに三々午後集まる。サンドイッチとクッキー、リンゴ、そしてポテトチップス。ポテトチップスがつくところがいかにもアメリカだ。リンゴは小さい青リンゴ。私は青リンゴが大好きです。誰かください。

ランチの後は小グループに分けて実釣指導である。私のところには6名の人がついた。が、である。半スボンで、すねむき出しの人あり、運動靴の人あり、初老の女性ありで大丈夫かなと思う。自己責任の国だから私が心配することではないのだが。

ともかく川幅一杯の押しの強い流れであり、明らかに流れが傾いていて、水が止まるところがない。ふとももまで入ると押しの強い流れで足をとられそうで、方向変換もままならない。水温は午前よりわずかに上がっている。

デモ時間は10分とのこと。仕方ないので魚のつきそうなところを自然に流す、誘うなど、一通りのテクニックを披露する。まったくアタリなし。いくつかの質問の後、即、フリーフィッシングである。上流、下流へそれぞれがワッと散ってしまい私の目のとどくところにはわずか2名である。

その2名の釣りを見ているとフライと同じである。竿を水平にしてラインをペタとつけて、流し切り、これを繰り返す。この強い水流を割って魚が出ることはないし、魚の活性が低いので毛バリを沈ませなければ釣れないのだが、初心者なのでそれを理解するのは難しいだろう。

こうなれば私もフィッシングを楽しもう。しかし、魚の着き場がわからない。それさえわかればなんとかなる。最初は瀬脇から岸ぐろにかけてのトロ場や、くるくる廻る白泡を狙ってみたがまったく反応はない。日本の渓流なら定石の場所だ。

これはひょっとすると流芯かもしれない。押しの強い流芯に沈めて丹念に流す。やっとズンという当たりが。サイズは泣き尺のブラウンだが、なにせ強い流れに乗って下流に走る。底石はヌルヌルである。下流の人にランディングをお願いする。もちろん自分でも取り込めるが、あえて頼むのが日米親善である。

そうか、意外と強い流れにいるぞ。次のアタリは川の中心の岩が強い流れを2つに分け、再び合流した流れが岩の後ろに3mほどの適水流をつくっている場所だ。深さは1.5mぐらいあるかもしれない。定石どおり、岩の上流に打ち込み、ラインをグンと緩めるとラインはズーンと沈んでいく。十分、沈んだところでラインを張りアクションを掛ける。

これを5回くらい繰り返したころ、タンスにゴンというアタリ。足場が悪いので一歩も動けず、強引に我が道を行く。Going my wayである。12インチ(30cm)サイズのブラウンである。ブラウンがこんな強い流れにいるとは。翌日の釣行の小さなクリークでイワナのような反応をするブラウンを見ると環境に適応する能力が高い魚のように思える。

結局、同寸のブラウンが3匹、合わせ切れが1つである。合わせ切れは腰が浮く寸前の流れに立ち、これ以上、届かないというくらいに竿とラインを寝かせて打ったその毛バリが着水した瞬間に出たもので、ハリスのテンションが一杯、一杯だったので1.2号のハリスでも切れたのだ。糸も簡単に切れた。なんのこっちゃ。

講習や実釣の場所としてはいい場所ではなかったように思う。魚の着き場がわかり、しかも、ポイントに届かせる技術がないと釣りにならない。事実、ほとんどの人がボウズであった。水が高くポイントがほとんどなかった。ダムの放水がなければもっとポイントができるので釣りになっただろうが。その後の釣行の際もプロボ川のダムの放水は続いていて私たちを悩ませることになる。

つづく