長文です。暇なときに読んでください。

 

 

これはアメリカのAdamのインタビュー(Web上で質問)を受けたときの回答です。英訳はアメリカの三輪聡さんがしてくれました。

 

 

Adamのページはこちら

 

http://www.tenkara-fisher.com/showthread.php?531-Interview-with-Prof-Hisao-Ishigaki

 

 

 

私はAdamさんにテンカラへの熱い情熱と誠実な人柄を感じました。そこで私も誠実に私の考えを述べます。

 

私がテンカラを始めてすでに37年が経ちました。当初は自分の楽しみのためのテンカラでしたが、やがて、こんなに面白い釣りなら多くの人に楽しんでもらおうと思うようになりました。この釣りをしている私は本当にハッピーです。だから皆さんもこの釣りでハッピーになってくださいという思いからです。

 

大学教員ということもあり、テンカラを科学的、合理的に、なおかつ、わかりやすく説明することは得意です。これはテンカラの普及に役だったと思います。私自身、自分で言うのもおかしいのですが、非常にフレンドリーな性格です。このため、この釣りで多くの友人ができ、その多くの友人たちのサポートがテンカラの普及にも役立ちました。

 

私がテンカラの普及に貢献できたことはほんのわずかと思います。しかし、日本でテンカラを楽しむ人は確実に増えています。私は、テンカラは日本に古くからある伝統的な毛バリ釣りであり、ヨーロッパを起源とするフライフィッシングに匹敵する日本の文化と思っています。私は日本にテンカラがあることは日本人の誇りと思います。

 

私の普及の背景には日本人なら日本の文化であるテンカラを知ってほしいという思いがあります。今、永い普及活動を振りかえって、日本においてはテンカラ人口を増やすことに、また海外ではフライフィッシングに匹敵する毛バリ釣りが日本にあることを紹介できたと思います。

 

私の釣りのキャリアは50年以上です。この間、海の釣り、湖の釣り、川の釣りなどたくさんの釣りを経験しました。鮎釣りが特に好きで夏は鮎釣りに没頭しましたが、やがてすべての釣りをやめ、現在はテンカラしかやりません。永い釣り遍歴の末にテンカラに辿りつきました。

 

 テンカラは私のすべてです。もちろん、家族がすべてであることは言うまでもありません。本当に好きなのです。その理由を説明するのは難しいです。もちろん、渓流の環境、たとえば山が綺麗、水が透明、魚が美しいなどがありますが、それは本質ではありません。

 

なぜ好きなのか。それはテンカラが極めてシンプルな釣りだからです。竿とラインと毛バリしかありません。テンカラは道具に依存しません。餌も、オモリも、目印も使いません。これだけの道具で魚を釣るためには、自分の技術がすべてです。釣れないのは自分の腕が未熟だからです。

 

この釣りには、もっとうまくなりたいという向上心が必要です。これは私の大学教授の仕事において、もっと研究したい、もっと真実を知りたいという気持ちと完全に一致します。テンカラは私の活力の源です。テンカラがあるので仕事も頑張ることができます。

 

私のアメリカでの友人はわずかです。また、大勢のテンカラを見たわけではありませんので少ない経験からの意見です。私はおおむね日本のテンカラが伝わっていると思います。今後、次第に発展していくと思います。ただ、フライフィッシングしかなかったアメリカに日本のテンカ ラの方法や精神がそのまま伝わるかと言えば、おそらくNOでしょう。

 

たとえば、テンカラでは毛バリは基本的に1種類しか使用しません。せいぜい数種類しか使いません。テンカラは毛バリに依存しません。もちろん、フライフィッシングのように毛バリを頻繁に変える人はいますが極めてマレです。

 

毛バリを交換することが当然と考えるフライフィッシングで、はたして毛バリは1種類でいいという考えが理解されるでしょうか。さらに、太いフライラインの重さを利用して毛バリを飛ばすフライフィッシングにおいて、ティペットのように細いレベルラインで毛バリを飛ばすことが理解できるでしょうか。

 

おそらく、この2点においてアメリカのテンカラは日本とは異なるものとなると思います。フライラインを使用し、毛バリを頻繁に交換するテンカラになるのではと予想します。つまり、リールのない長いロッドを使ったフライフィッシングに。

 

実際に私が見た何人かのアメリカ人のテンカラは、フライラインを水面にベタっとつけて、長い距離を流すというフライフィッシングの方法そのものでした。日本のテンカラの釣り方を正しく伝えているのは私の知るかぎり、ダニエルなど数名です。

 

私はテンカラはフライフィッシングとは別のものと思います。それはそれぞれが発展してきた川の環境が異なることに理由があります。まず毛バリに対する考えが全く違います。イギリスを起源とするフライフィッシングでは毛バリは形、色、サイズを可能な限りイミテーションする必要があると考えます。

 

それはフラットでゆっくり流れる川では魚は明らかに毛バリをセレクトするからです。このため、毛バリは餌である虫にイミテーションするように工夫されてきました。

 

しかし、日本の渓流の流れは速いので餌はただちにテリトリーを外れてしまいます。このため魚は毛バリをセレクトする余裕がありません。魚は餌と同じサイズの、それらしいものであればくわえてしまいます。くわえてそれが違えばあとで吐き出すのです。

 

テンカラの毛バリは魚のこのような習性をもとにしているため形、色を重視しません。唯一サイズだけです。しかし12番サイズであれば季節、場所、魚種を問わず通用すると考えます。

 

2つ目の違いはテンカラは道具(タックル)に依存しないことです。これは日本の伝統的な考え方です。たとえば伝統的な日本の家は「ふすま」と「障子」を使うことによって大きな部屋にも、小さな部屋にもすることができます。この他にもたくさんあります。一つのものですべてまかなうのは日本のすばらしい文化です。この点で、フライフィッシングとは違うものと考えます。

 

しかし、フライフィッシングはテンカラの考えを取り入れることにより深化すると考えます。それは私がアメリカの渓流において、日本のテンカラの釣り方、毛バリでまったく同じように釣れたことにヒントがあります。

 

私はアメリカの他に、カナダ、韓国、台湾で釣りをしていますが、日本とまったく同じ方法で釣ることができました。どのような川にも源流があり、渓流があり、そして広くゆったりと流れる場所があります。アメリカの渓流も日本の渓流も違いがありません。

 

アメリカの魚は英語を話しません。日本の魚も日本語を話しません。魚の習性は世界共通です。流れの速い渓流では魚は毛バリをセレクトしません。アメリカの魚もセレクトしません。テンカラの方法と考え方はアメリカの渓流における釣りに参考になると思います。シンプルなタックルと毛バリでも釣れることは、複雑化するフライフィッシングで悩む人に福音になると思います。

 

毛バリは1種類でいい理由には3つあります。

 1. 渓流という流れの速いフィールドでは魚は毛バリをセレクトしません。

 

2. 魚の視力は非常に悪く、フォーカスはピンボケです。つまり、魚には人間の目のように毛バリの細部を識別することができません。

 

3. テンカラの釣り人が100名いた場合、100名の毛バリはまったく異なります。つまり毛バリは100種類あります。そして誰でもその毛バリで釣ります。つまり、このことはテンカラの毛バリには特定のパターンはないことを示しています。

 

このようにテンカラでは毛バリを重視しません。テクニックを重視します。毛バリをいかに餌のように見せるかというテクニックが重要です。それには毛バリを浮かす、沈める、虫の動きをまねて誘う、 一ヵ所で止める、一旦沈めてから浮かすなどのさまざまなテクニックがあります。テンカラの毛バリとシステムはこれらを可能にします。

 

私が使用するのはレベルラインだけです。私も永いテンカラの経験の中で、さまざまなラインを試しました。ブレイデッドラインも使用しました。しかし、レベルラインに勝るものはないが私の結論です。

 

レベルラインの利点はさまざまなものがあり、ここに挙げきれません。日本ではほとんどの人がレベルラインを使用します。なぜなら一旦、レベルラインを使用した人はそのメリットをすぐ理解できるからです。

 

日本ではレベルラインを使用する人が増えたため、数社のラインメーカーがテンカラ専用のレベルラインを発売しています。すべてフロロカーボンで、しかも視認性のいいカラーラインです。

 

フライフィッシングではフライラインの重さを利用して毛バリを飛ばします。レベルラインのメリットは軽いことです。軽いラインはスピードをつければ飛びます。フライラインのようにゆっくり振っても飛びません。このためフライラインを使用している人は、レベルラインは飛ばないと思うでしょうが、それは振り方が正しくないからです。

 

私は川の規模によってレベルラインの長さを換えます。ラインの太さは3.0号〜4.0号を使います。3.04.0は日本のラインの太さの表示です。

 

メインストリームZE(本流テンカラ)を使用していただき感謝します。私はこの竿を2年かけて開発しました。長さは4.0-4.5mにズームします。私は川の規模によって長さを変えます。ほとんどの場合、4.0mを使用し、ランディングのとき、もし魚が大きかった場合、4.5mにズームします。それによりトルクが強くなるので取り込みが簡単になります。また、ロングライン(私の場合、8m程度)を振る時には4.5mの長さにします。

 

この竿は非常に丈夫に作られています。トラブルの少ない竿です。川の規模によって長さを変えることができること、さらに大きな魚のランディングでは4.5mに延ばすことでランディングが簡単になるのがこの竿の特長です。

 

日帰りの釣りでは、バックパックの中身はおそらくAdamさんと変わらないと思います。予備竿、ランチ、水です。サバイバル用品は持っていきません。日帰りの場合でも必ず複数で行きます。このためお互い助け合うことができるので、たくさんのものを持ちません。若かった頃は山奥でキャンプできるように大きなバックパックを背負って何日も過ごしましたが、今はもうやりません。

 

私もAdamさんと同じようにすべての魚を殺さずにリリースします。私はネットを使用しますが、それは魚を直接、手で持たないようにするためです。さらに、ネットがあると魚が逃げないので写真を簡単に撮ることができるからです。

 

私が使用するネットは日本の渓流ネットです。木と鹿の角でできています。日本の標準的なネットです。私はリリースボックスを使用しません。日本でもAdamさんと同じようにリリースボックスを使用する人もいます。

 

私はシマノのテンカラ竿のアドバイスを行っています。私が手掛けた竿は「メインストリームZE」のみです。シマノから「渓流TenkaraZL」が201212月より発売されます。長さは3.4-3.8mのズームです。この竿は、「メインストリームZE」が兄、「渓流TenkaraZL」が弟という位置づけです。この竿のアドバイスに2年かけました。

 

まず、シマノのロッドビルダーと一緒に渓流でテンカラをします。そのとき私の理想の竿を説明します。長さ、調子、細さ、軽さ、グリップなど、様々な点を伝えます。ロッドビルダーは私の説明をもとに最初の竿(プロト1号)を試作します。

 

そして再び、ロッドビルダーと一緒に渓流で釣りをして、さらに改良点を指摘します。「渓流TenkaraZL」は5回繰り返し、OKしました。私は納得するまでOKしません。したがって完成までに2年かかります。

 

私は私が理想とする竿を作ってくれるシマノに感謝しています。おそらく、私が理想とする竿は多くのテンカラの人に恩恵をもたらすと思います。私は多くの人がこの竿を使うことでテンカラが楽しくなったと思うことを最高の喜びとしています。

 

 私はテンカラの竿には3つの役割があると考えます。キャスティング、フッキング、ランディングです。この3つを満足させる竿が理想です。そして、長さ、調子、細さ、軽さ、グリップの握りやすさ、さらに仕舞い寸法(注:竿を収めたときの長さ)などを考えます。

 

  竿の評価の最大のダメージは「折れる竿」です。これはシマノにとって最悪の評価になります。細い竿にすれば軽くなりますが、折れやすくなります。軟調の竿はキャスティングは簡単でもフッキングとランディングに弱点があります。

 

 さらに価格も重要です。どんなにいい竿でも高い価格では買ってくれません。それらを総合しながら理想の竿を作ります。「渓流TenkaraZL」は理想とする竿になりました。おそらく、今後、日本におけるテンカラ竿のかなりのシェアを占めると思います。

 

榊原さんはテンカラのマジシャンです。私よりはるかに優れたテクニックを持っています。そのテクニックを支えるのは彼がいわゆる動物的な感覚を持っていることにあります。彼は言葉の人ではなく、感覚の人です。このため、彼の感覚の鋭さにほとんどの人はついていくことができません。

 

榊原さんとは永いつきあいなので数えられないほど一緒に釣りをしています。このためエピソードはたくさんあります。彼は偏光グラスを使用しません。偏光グラスをつけると魚の動きが見えすぎるため、かえってよくないとの理由からです。誰でも偏光グラスで魚を見ようとしますが、彼にはすべて見えているので必要としないからです。

 

ある日、彼はギラツク水面の下に大きな魚がいることを私に指摘しました。偏光グラスをしている私でさえその魚は見えません。いくら目をこらしてもわかりません。しかし、彼は一言「いる」。彼の毛バリは確実に魚の前に落ち、魚は毛バリをくわえました。しかし私にはまったく見えません。

 

彼は「食った」と声をあげ、ヒットさせました。なぜ彼には見えるだろうか。彼の感覚は非常に鋭いとしか言いようがありません。もう15年も前のことですが今でもそのシーンを忘れることはありません。

 

もちろん私自身の楽しみのためにテンカラをすることは何度もあります。しかし、私にとってテンカラを教えることも楽しみの1つなのです。教室やセミナーに参加した人がテンカラは楽しいと思ってくれることは私の喜びだからです。私の夢は、日本の渓流釣りの人口の半分をテンカラにすることです。

 

私は永い間、テンカラをやってきました。たくさんの魚も釣りました。さまざまな体験もしました。私は、教えた人、一緒に行った人が釣ったときの方が、私自身が釣ったことよりもうれしいのです。その人の喜ぶ顔を見るのが楽しいからです。私にはもっとたくさん釣りたいという欲はありません。もちろん大きな魚を釣りたいとか、美しい魚を釣りたいという願望はあります。

 

今の私は魚を釣るより、人を釣る方が楽しみです。講習会を受けた後で、私に釣りました、うまくなりました、楽しかったと言う人はすべて私に釣られた人です。「人を釣るのが名人」これが私のモットーです。

 

インタビューに回答する機会をいただきありがとうございました。テンカラは永い伝統のある日本の文化です。また、日本人の精神が反映されたものです。シンプル・イズ・ベストは真理です。

 

竿、ライン、毛バリだけというシンプルなタックルでも通用することは、ものがあふれ、複雑化する私たちの生活において不必要なものを削るきっかけになると思います。シンプルなタックルのテンカラは新たな釣りの楽しみを生みだすものと思います。アメリカでのテンカラの発展を期待します。