モンタナテンカラ紀行 (その3)  なぜアメリカでテンカラが?

 

8月27日、朝8時からサミットが始まった。参加者は119名である。ざっと見渡すと平均年齢は55歳ぐらいだろうか。夫婦連れが多いのはアメリカならではである。ダニエルの開会の挨拶のあと、私が日本のテンカラについてプレゼンした。もちろん日本語で。これを中野さんが即妙に通訳してくれる。

私の話はテンカラは職業漁師の釣りであったこと、日本の文化であること、コンセプトは効率であること、魚の習性を熟知し、日本の渓流にフットしたシステムを使うこと、そのテクニックなどである。

終わるとサッと何人かが手を挙げる。代表的な質問が、なぜアメリカでテンカラが普及しつつあるのかというものである。私はそれはシンプルであり、よく釣れる、そして何よりお金がかからないからだと回答した。お金がかからない・・これには大勢の人が納得したようだ。

その後も、いろいろなプレゼンがあった。テンカラは登山で便利だというバックパッキングのプロのライアンの楽しい動画を交えたプレゼン。ユタ州でのテンカラガイドをしているエリックがこれも動画で紹介。パタゴニアの創始者のイボンの友人で地元のフライショップのオーナーのクレイグが、氷が流れる氷点下20℃の真冬の川でもテンカラができるよと動画を紹介。

地元のガイドの○○がプロガイドとしてテンカラはメリットがあるというプレゼン。彼の話はアメリカのフライ事情とテンカラがなぜ普及しつつあるかを知るヒントになった。

フライのガイド料は1日400j、2人なら700jらしい。日本円なら3万円である。非常に高額である。しかも初心者もいる。誰だって釣れると思ってくるところにフライの複雑なシステムと難しいキャスティングである。これで1日を費やしてしまうと、お客さんの不満が残る。

そこにテンカラが入ってきた。アメリカの人はこれはフライじゃないとは考えない。簡単にキャスティングでき、したがって釣りに専念できるのでお客に喜んでもらっているというのだ。なるほど。

女性を対象としたフライショップの女性オーナーも参加していた。つまり、サミットに参加しているさまざまな人が、それぞれのプロとして仕事や思惑からテンカラのメリットを挙げ普及させようとしていることが分かる。

参加者の年齢が高いのはなぜか? それはアメリカではフライはお金がかかる遊びだからである。ウェアやウェイダー、シューズにくわえ、各種のロッドとリール、高いタイイングセット・・・。若い人にはフライは手が出ないようだ。なるほど、翌日から一緒に釣行した人たちのウェアを見ると正直いってダサイ(死語?)。カタログのようなスタイルの人は皆無である。

日本ではフライは若い人に人気である。ファッションもカタログから抜け出たようである。アメリカの人が日本の若者のフライフィッシングファッションを見たらどう思うだろうか。つまり、日本で若い人がフライができるのは日本人がお金持ちの証拠でもある。アメリカでは若い人にはフライの敷居は高いようだ。

ランチの後はお楽しみ抽選会とオークションである。私は日本からレベルラインキャップやTシャツ、村上康成のアマゴのタオルなど、オークションには春日さんのハサミケース、市橋先生の竹竿などなど多数出品した。オークションの売上げはモンタナ州の河川環境保護に寄付されるとのことである。

その後は私とダニエルの実釣デモである。会場から10分のイエローストーン公園を流れるマディソン川である。映画の「マディソン郡の橋」の川ではないとのこと。

参加者のほとんどはWebでテンカラは知っていても、実際の釣りを見るのは初めてのようだ。ダニエルがロングラインを振ってくれというので毛バリまで8mの仕掛けで振った。

テンカラのメリットはラインが水に着かないので、毛バリを自然に流すことができる、フォルスキャストをしないこと、沈めるテクニック、各種の誘いなどをデモした。あいにく時間帯が悪く、2人とも掛けることはできなかったが、あんな細いレベルラインで毛バリが突き刺さるように飛ぶことに驚いたようである。

その後はおきまりのキャスティング体験。向こうの人は好奇心旺盛である。次から次へ振らせてほしい・・・。

ひと段落した後、解散となりサミットは終わった。そこからフリータイム。我々は日本の渓流に近い川ということで1時間かけてマディソン川の上流のギボン川へ。上流すぎたようで、魚が少なく小さい。20cm程度のブラウンである。

ユタの3人組は会場近くに入ったが、ここはデカかったらしい。うちの一人は竿が立たずにダニエルの竿が3か所でつぶれるようにクラシュした。ダニエルはその竿をみてゴメナサイ。魚がデカ過ぎたか、いなしができなかったか。

そんな話をディナーでワイワイと。今日はバイソンの肉入りのスープを食べた。ブロックになった茶色い塊は脂身がなくただ硬いだけで、これがバイソンかという程度のものであった。夜の12時にディナーが終わった。明日は3人組と一緒に釣る約束をした。

なお、モンタナテンカラ紀行の一部の写真は、ダニエル、ブライアン、アシュリンが撮ったものを掲載している。