宿泊したエバーグリーン・ロッジはヨセミテ・ナショナルパークの入り口にあった。朝、ロッジを発ち、ほどなくしてヨセミテ国立公園に入る。目の前に圧倒的な景観が広がる。アメリカの観光客は口ぐちにWao、Wao とワオ・キツネザルのように驚く。もちろん私もOh!Greatと日本人らしく。
遠景なのでその大きさの実感はまだないが、大きなことは間違いない。特徴的なハーフドームが見える。その左には垂直な壁が。ハーフドームはあたかも丸いパンをスパッ
と切ったような形だ。氷河が創った自然の造形。いかなる芸術も表現できない美。
車は次第に垂直の壁に近づき、真下に来た。エル・キャピタン。写真ではその高さがわからないが圧倒
する1000mの垂直の岩盤。見上げる首が痛い。Wikipediaによれば花崗岩の1枚岩だそうで、クライマーたちが常に挑戦しているらしい。通常は4〜6日で登るそうだが、
2008年に日本のプロ・フリークライマーである平山ユージさんがパートナーとともに2時間37分で登り、世界最速記録を更新したという。スパイダーマンか。
ハーフドームも奇岩である。オーバーハングしている。高さ300mの滝もある。あまりの高さに水は風に吹かれ、舞い上がり地上まで落ちて来ない。渇水でこれなので、もし水があるときはどのような滝になるだろうか。
圧倒的な景観に見とれているが、私たちの狙いはヨセミテの奇岩の間を流れる川で釣ることである。川を覗けば水は極端に少ない。白い平水線より30cmは少ない。橋の上から見てもニジマスの姿は見えない。
どこにいるのだ。
それでもせっかくだから竿を出そうと河原に降りる。観光客が橋の上から見つめる中を竿を出す。いた! あれはニジマスだろう。ゆったり水面下50cmを泳いでいる。
尺はあるだろう。あれならあるいは、という期待が。
さぁ、ではというところで、上流からカヌーのカップルが
。まずい。コラッこっちに来るな! 思いも知らずにカヌーはニジマスの上を漕いで下っていく。「ヘイ! 釣れた」と陽気に声をかけてくる。「ノーフィシュ」、「上流に魚がいたわよ」「サンキュー」 あんたたちのせいで釣れないのだよ。
ニジマスはどこかに消えてしまった。橋の上から目をこらすと小さいながら数匹のニジマスが見える。時折、水面で餌をとる。これは! と思ったダニエルがトライ。でも私はダメだと思うよ。最初からダメと思う私とトライするダニエル。
ここに歳の違いが出る。結局、ノーフィッシュで毛バリに反応もしなかった。だからねダニエル! まだ若い。
つまり、大渇水で魚の活性がまったくないのだ。ダニエルは3週間前のまだ水があるとき、ここでいい釣りをしているらしい。でも、今の状況
を見る限り魚はどこかに移動してしまったようだ。
とりあえず腹ごしらえだ。アボガドの中身をパンに挟み、サバの味噌煮缶を開けてパンに載せる。結構いける。ランチを食べたら移動だ。どこへ。ゴールデントラウトの渓へ。ここから4時間のキングス・キャニオン国立公園を流れる沢にいるらしい。ブライアンとダニエルはそこへのル−トの検討を始めた。
午後2時ヨセミテを出発。いったん山を降り、平原を南下し、再びキングス・キャニオンへ向けて山を登るようだ。ひたすら長い道のりである。山を降りるとどこまでもまっ平らな平地。ほとんど手つかず
の荒地。ところどころでフルーツ、トウモロコシ、アーモンドの畑が広がる。
途中のフルーツスタンドで葡萄やプラムを買う。今回の旅行でここのオバサンがもっとも太っていた。息をするのも苦しそうである。スタンドには「フルーツを食べよう」というポスターが。ダニエルがすかさず「フルーツを食べると太ります」とセンスのいいジョークを言う。
4時間かかってキングスキャニオンへ。
途中で6000フィートHTの表示が。待てよ、1フィートは30cmだから、え!1800m。そうなのだ。ぐんぐん登ってきたのだ。それにしてもマイルにしても、フィートにしてもなぜアメリカはメートル表示にしないのだろうか。
感覚的には石徹白がダメだから関東を越えて群馬の川でやろうみたいな距離を移動している。かろうじて夕マズメに間に合った。30分ぐらいしかできないがゴールデントラウトを狙うことにする。
ひとまたぎの小さい沢である。橋から少しのところで数匹の小さい魚が釣れた。ニジマス
のようでもあるし、そうでもないような。どうやらハイブリッドらしい。上流にはニジマスが上がれない滑滝があり、そこから上流は
ゴールデントラウトの純血種らしい。それに会うのは明日の楽しみにして今晩のキャンプ地に移動した。
ここは常設されたキャンプ地で一人10ドル程度かかるらしい。そのかわり水洗トイレであり、水も使える。熊対策で
頑丈な鋼鉄のゴミ入れや、リサイクル設備が常設され掃除も行き届いている。
今日も薪集めからだ。パキパキの薪はよく燃える。今晩のメインはステーキとチキン。マシュマロを串に刺して火であぶるとクリーム状になってうまい。夜の9時を回り、半袖では寒くなった。どんどん寒くなる。もはやダウンが必要な寒さだ。テントを張り、もぐり込む。身体が硬くなるほど寒い。標高1800m。寒さでよく眠れない。ダニエルの話では朝うっすら氷が張っていたとのことだ。
ヨセミテの景観(動画)
その(7)につづく |