カリフォルニアテンカラ日記(3) -GGACCでの講演とデモ−

 

今日も朝から雲一つない突き抜けるような快晴である。明日も明後日も、その後も、ずっと快晴。今は乾季なので雨の心配はまったくないようだ。朝は中国人の店でおかゆや中華マンなどを食べる。量が多いのでこれでランチはいらない。

今日はゴールデンゲートアングリングキャスティングクラブ(GGACC)でテンカラの講演とキャスティングのデモが予定されている。その前に中野さんが市内を案内してくれる。サンフランシスコは同性の結婚が公認されており、そういう人たちの住む地区へ。目印は虹の旗のようだ。風がないので大きな旗がうなだれていた。小さい 虹の旗が家々にも立ててある。まったく興味なし。好奇心もわかない。

昼にクラブへ。木造のがっしりした平屋のハウスである。1930年代に政府のレクレーション政策の1つとして造られたようだ。ハウスの前には大きなプールが 3つ。キャスティング練習のための人工的なプールである。底は浅く、立ちこめるようになっている。

魚はいない。ただただキャスティングのためだけのプール。この日は土曜とあって大勢キャスティング練習にきている。ダブルハンドのスペイキャストに励んでいる人たちも いる。

つまり、キャスティングはいかに遠くに、いかに正確にキャストするかというスポーツであり、結果的にそれが釣りに繋がるのだろうが、クラブの目的は釣りではないようだ。

毎年恒例の石徹白フィッシャーズホリディーのフライのゲストの岡田さんは、このクラブのスペイキャスト大会に参加している。彼は私の大学の卒業生で、学生時代からダブルハンドのキャスティングを学内で熱心に練習していた。練習のしすぎで大学からもう1年いてください と乞われたのは愛嬌である。私の釣りの実験に協力してもらったのも昔の想い出である。

室内の調度は歴史と伝統を感じさせ、ところどころ色が剥げかかってはいるが、しかし古さより重厚さを感じるガッシリした椅子、机などで満ちている。すでに 80年も前にこのような施設を作るアメリカの奥深さを感じる。このクラブを中心にコミュニティーを作り交流の場としているようだ。

ここでクリスと再開する。彼とは昨年、キャッツキルで会って以来である。NY在住で奥さんは名古屋生まれの日本人。奥さんの両親は名古屋在住らしい。奥さんが日本人ということで何かと日本文化やテンカラへの関心が高いのだろう。

相当なテンカラオタクである。みずからTenkara Bum(テンカラ馬鹿)というWebSiteを持っている。59歳、職業は株のトレーダーらしい。ひげは瀬畑雄三さんにそっくりだが、腕ははるかに及ばない。

講演は当然日本語で中野さんに通訳してもらった。日本から「Tenkara」の講演に来たというわけで、どんな釣りだろうかと関心が高かったようだ。 40名ぐらいが聞いている。立ち見の人も。テンカラのシンプルさは日本の文化性であることを強調した内容にした。

関心は毛バリにある。これはどの国の人も変わらない。毛バリは1つ。道具に依存しないなどは日ごろ日本でも言っていることであるが、なぜ毛バリは1種類でいいのか、フライフィッシングの本場のアメリカ人に理解してもらうのは日本以上に難しいかもしれない。

しかし、その理由についてテンカラは職漁を起源とする効率の釣りであり、1種類であれば毛バリ交換の必要がなく合理的であること、さらに速い流れの魚は毛バリをセレクトしない(余裕がない)こと、魚の視力では毛バリの細部が識別できないという点 を強調した。これについて、講演の後の質問で「そう思う」という意見があり、それに反論がなかったので理解してくれたのかとも思う。

この講演をクラブのNo1とか、No2とかのボブが聞いていた。ボブの質問は大きな魚が掛ったらどうやって取り込むのかということだった。もちろん身振りで応えた のだが、このボブが翌日とんでもない釣りをするとはそのときには夢にも思わなかったのだ。

講演の後はキャスティングのデモである。毛バリまで9.5mのラインを本流テンカラZE4.5mの竿で振って見せた。風に向かってもレベルラインが飛ぶことをデモした。まさかこんな竿で細いラインが飛ぶとは思っていなかったようで拍手、拍手である。チャレンジ !となって、俺が・・・と自信ありそうな2m近い大男が振った。さすがにこのクラブの主要メンバーだけあって見事なキャスティングである。

次々に竿を振るが、うまく飛ぶ人、ワナワナな人もあって技量の差が歴然と出たのであった。今度は毛バリまで5.5mにして連続打ちを披露した。 小さい木の葉をめがけて毛バリで沈める技を披露した。偶然なのだけれど、当たったのでこれも拍手である。

その後は毛バリ巻きである。テンカラはアメリカで確実に浸透している。ちなみにYouTubeでTenkaraで検索するとアメリカの動画がたくさんあることに驚くだろう。当然、テンカラの毛バリ巻きに興味ある人もいて 10名ほどが私のいい加減毛バリの巻き方を見守った。

胴を巻くとき、グルグルグルを声を出す。声は必要ないけどね、などとジョークを交えて楽しく巻く。12回と声がかかる。つまり、私が巻いた数を数えていた人がいたのだ。彼が明日からの釣りに参加するトロイであったことを後から知る。

テンカラ界の左甚五郎の春日さんの彫った毛バリBoxには驚いたようだ。テンカラウイルスを染み込ませた毛バリをどうぞ1本づつ記念に持っていってください、と渡したことは言うまでもない。

ディナーはクリスと、リック夫妻も参加したものとなった。リックは2m近い巨漢で奥さんのシェリーも180cmある巨体で、爆乳なのだが乳が胴、腰までつながっている典型的なアメリカのオバサン体型である。リックの顔には私は好人物ですと書いてある。言葉が通じれば間違いなく友達になれる人だ。 モルモン教徒らしい。私は焼肉大好きのホルモン教徒なのだよリック。

揃ってエチオピア料理の店にいった。大皿に盛られた豆や野菜などをソバクレープのようなものをちぎって手で食べるものである。初めてである。おいしいとは思うが、病みつきになる味ではなかった。リックとシェリーの食べるのは 実に速い。速食いは太るもとだよリック夫妻。もう遅いか。

ここでも私とダニエルは爆とか美とか品定め に忙しい。ふと目にしたウエイトレスのエチオピアの女性が「美」なのでアゴと目でダニエルに知らせた。ダニエルも美を感じたようで、ともにサムアップして「グー」。

店を出ると街は深い夜霧に包まれていた。♪「夜霧よ今夜もありがとう」 知っている人も少なくなったか。その晩、初めて熟睡した。時差ボケはすっかり解消したようだ。いよいよ3泊4日の釣りのスタートである。

その(4)へ つづく